落語魅捨理全集 坊主の愉しみ  山口雅也  2017.9.7.

2017.9.7.  落語魅捨理全集 坊主の愉しみ

著者 山口雅也 1989年『生ける屍の死』でデビュー。95年『日本殺人事件』で第48回日本推理作家協会賞。02年『奇偶』では「偶然」という概念を型破りとも言える視点で扱い、ミステリーの新たな到達点を示す。

発行日           2017.5.10. 第1刷発行
発行所           講談社

初出 『坊主の愉しみ』(ハヤカワミステリマガジン169)、『品川心中幽霊』(メフィスト17Vol.1)、そのほかは書下ろし

落語魅捨理全集1.     坊主の愉しみ
男の道楽・悪癖のうち、「打つ」と「蒐める」というタチの悪い2つにうつつを抜かしたご仁が主人公。生業は一応骨董商。古着を買って坊主姿になり掘り出し物を求めてぶらつく
廓近くの茶店には意外な隠れた掘り出し物があると睨んで入ったところ、猫が絵高麗の皿で餌を食べている
しめたと目をつけて主に猫を買いたいと申し出。猫にも犬同様仏性があると言って1両だし、ついでに餌の乗った皿もというと、主が待ったをかける
主は骨董屋が目を付けたことを逆手にとって、高価な品だからタダでやるわけにはいかないとして、究極の賭けを提案
主は、骨董屋が平賀源内の発明した煙管点火器に目をつけ、百発百中の成功率だというので、10回やって成功したら絵高麗をやるが、もし失敗したら小指をもらうという
絵高麗に惚れ込んだ骨董屋は賭けに乗り、点火を始める
10回目で火が付いた時、風が吹いて消えたのを見て主は骨董屋の小指を切断すると、切れた小指は転がって猫の足元へ、驚いた猫が皿に足を踏み入れた途端に皿が割れる
まだ水につければくっつくと言って小指を返せという骨董屋と、皿が割れた以上小指を高く買い取らせて儲けようとする主をしり目に、猫が小指を足で抑えながら啖呵を切る
こんな小指でも持っていくところに持っていけば高く売れる、そうすれば一生鰹節喰って生きていけると言って、小指を加えて走り去る
さて、猫に仏性ありや

落語魅捨理全集2.     品川心中幽霊
吉原は、天下御免の御町(おちょう)。これ以外の遊郭を岡場所(おかばしょ)と呼び、新宿、品川、千住、板橋を四宿(ししゅく)といった
遊女が馴染みの客に愛の証として送る文のことを起請文(きしょうもん)という
遊女が稼げなくなって、客と心中しようとするが、相手だけ海に落ちたところで、若い衆が旦那が来ているといって呼び戻される
廓でほっとしているところに、死んだはずの客が化けて出る。お化けが気持ち悪いというので隣の部屋に寝かしつけたところに、客の後見人が来てどうしてくれると迫る
坊主になってそれなりの金子を供えれば勘弁してやるというので、女郎は髷を切り落とすが、後見人は、それでは償いには足りない、丸坊主の比丘尼(びくに)くらいになってもらわないとすごむ
女郎は、髪は女の命、女郎には商売道具だと息巻くと、後見人は、偽りの餌でダボハゼ客を散々釣って来たんだから、魚籠(びく:獲った魚を入れる籠)にしてやろうってことなんだという
比丘尼と魚籠にを掛けた地口(じぐち)オチだが、話には続きがあって、生きて帰って来た客と後見人がグルになって女郎から金を取り戻そうと仕組んだからくりを種明かしするが、客が姿を現さない。冥土に足を忘れてきたという

落語魅捨理全集3.     頭山(こうべやま)花見天狗の理(ことわり)




落語魅捨理全集4.     蕎麦清(そばせい)の怪
落語魅捨理全集5.     そこつの死者は影法師
落語魅捨理全集6.     猫屋敷呪詛(じゅそ)の婿入り
落語魅捨理全集7.     らくだの存否(ソンビ)












2017.7.2. 朝日
(書評)『落語魅捨理全集 坊主の愉しみ』 山口雅也〈著〉
 落語家が探偵だったり、演目がヒントになったりする落語ミステリーは多い。著者5年ぶりの新作も落語ミステリーだが、従来の作品とは一線を画している。
 著者は、古典落語と同じ江戸を舞台に、マクラ、本題、サゲと進む落語のルールの中に意外な展開を織り込んだのだ。これは、落語の構造とミステリーを融合させた新機軸といえる。
 しかも、語呂合わせを使う地口オチだけでなく、考えオチ、楽屋オチ、夢オチなど多彩なサゲを用意し、それにあわせて意表をつく結末を作っているので、収録の7作はバラエティーに富んでいる。本書に密室ものが多いのは、江戸時代の建物で密室を作るのは難しいことを踏まえたパロディーになっているなど、異色のミステリーを書いてきた著者らしい遊び心も面白い。
 思いもつかない着地点になる「坊主の愉(たの)しみ」、どんでん返しが連続する「そこつの死者は影法師」は特に傑作。落語好きも、ミステリー好きも満足できる。
 末國善己(文芸評論家)
     *
 『落語魅捨理(ミステリ)全集 坊主の愉しみ』 山口雅也〈著〉 講談社 1944円


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