セレンゲティ・ルール  Sean B. Carroll  2017.9.9.

 2017.9.9.  セレンゲティ・ルール 生命はいかに調節されるか
The Serengeti Rules 
~ The Quest to Discover How Life Works and Why It Matters  2016

著者 Sean B. Carroll 1960年オハイオ州トレド生まれウィスコンシン大マディソン校教授。進化発生生物学(エボデボ)の第1人者。2012年』ベンジャミン・フランクリン・メダル、2016年ルイス・トマス賞受賞。翻訳された著書に『シマウマの縞、蝶の模様――エボデボ革命が解き明かす生物デザインの起源』

訳者 高橋洋 翻訳家。同志社大文学部文化学科卒(哲学及び倫理学専攻)

発行日           2017.6.30. 第1刷発行
発行所           紀伊国屋書店

病んだ生態系を治癒することにより、激減してゆく動物は取り戻せる

イントロダクション――奇跡と驚異
タンザニアルートB144の東端に、ンゴロンゴロ・クレーターの巨大な緑の斜面が屹立
大地溝帯にある多数の死火山の1つが崩壊して形成された幅16㎞のカルデラで、25,000頭以上の大型哺乳類が生息
西方には広大なセレンゲティ(マサイ族の言葉で「無限の平原」の意)平原が横たわる
両者の間には、全長50㎞のねじれた荒地の迷路、オルドヴァイ峡谷がある ⇒この斜面で150180万年前に東アフリカに住んでいた3種のヒト科動物の骨を発見、後には360万年前の人類の祖先、小さな脳を持ち直立歩行していたアウストラロピテクス・アファレンシスが残した足跡を発見
ホモ・サピエンスが存在してきた20万年のほぼ全期間にわたり生物学が人間を制御してきたが、この100年で形勢が逆転、人間が生物学を制御
生物学に対する医療と農業の進歩の影響は甚大 ⇒ 自然の変化の度合いに比べると、平均寿命がかくも短期間に50%以上も延びたというのは驚異であり奇跡の時代に生きていると言える
ヒトの生命に関して学んだ最も重要な分子レベルの知識は、「すべてが調節されている」というもの
l  体内のあらゆる分子の数は、特定の範囲に維持されている
l  体内に存在するあらゆる細胞型(200種以上存在)は、特定の数だけ生産し維持される
l  細胞分裂から糖代謝、排卵、睡眠に至るあらゆる身体プロセスは、特定の物質によって支配されている
疾病のほとんどは、特定の物質が過剰若しくは過少に生産される、調節の異常に起因する
疾病に介入するには、調節の「ルール」を知る必要 ⇒ ルールの解明が分子生物学
生物学では、生命を調節するルールをあらゆるスケールで理解しようと努める
生態系レベルのルールをセレンゲティ・ルールと呼ぶ
人間世界の繁栄の副作用が、動植物の生態系に急激な変化をもたらしつつある
世界全体のライオンの数が、50年前の45万頭から3万頭に。26か国から姿を消す
サメの種の個体数は、過去50年で9099%減少。26%が絶滅の危機に
世界中の生態系が病んでいる、疲弊している証拠
人口が30億だった50年前は地球の生産能力の70%を消費していたが、1980年には100%を突破、現在では150%に達しているという

第1部        すべては調節されている
第1章        からだの知恵
身体内で生じるあらゆる事象は調節されている ⇒ ホメオスタシス・メカニズム
身体にそれ自身を治療する能力が備わっているが、これらの機能が過負荷を受けたり、誤作動したりした場合に医師の仕事が求められる
                                                                                                
第2章        自然の経済
チャールズ・エルトン ⇒ 現代生態学の祖。動物の個体数は如何に調節されているか
1921年北極圏を探検し、あらゆる生物の食糧源を突き止めることから始め、「食物連鎖」の形成を図表に表した ⇒ 食物循環、食物網と呼ばれる
ノルウェーではレミングイヤーといって、モルモットに似た小動物が秋に大挙して出現する年があり、地元では半世紀にもわたりこの珍現象を記録していたし、カナダウサギの数についても約10年ごとに急上昇した後急降下する。ウサギはオオヤマネコの格好の餌食で、オオヤマネコの毛皮は漁師の格好の獲物。1821年から毎年納められた毛皮の数を見るとウサギの数との相関関係がみられる
動物コミュニティでは、放置しておくと個体数を劇的に増加させる能力が個体群にあり、ある動物種の個体数が食物連鎖を介して別の動物種の個体数の影響を受けることがある
レミングやウサギの激減は、大半の動物を速やかに除去する疫病などの力が存在する
動物の個体数の周期的な変動は、生態学と呼ばれる新たな科学分野となる
食物を動物経済の「通貨」と見做し、あらゆる動物を駆り立てている第1の力は、正しい種類の食物を十分に確保しなければならないという必要性で、食物の確保は動物社会では喫緊の課題であり、動物コミュニティのあらゆる組織や活動は、食物供給の問題に帰着
原理1 食物連鎖 ⇒ 大きな魚は小さな魚を、小さな魚は水生の昆虫を、水生の昆虫は植物や泥を食べる
原理2 食物のサイズ ⇒ 大きな鳥は小さな穀粒を食べることができない
食物のサイズは、食物連鎖の主要な決定要因となる
原理3 個体数のピラミッド ⇒ 1つの丘に2頭のトラは共存できない
食物連鎖の最下位に位置する動物の数は多く、上位に行くほど個体数は少なくなる
個体数のピラミッドの存在は、一定の領域内での動物の数が均衡することを意味 ⇒ 動物の個体密度は一方では過密を、他方では絶滅を回避するべく調節が起こるが、一般的に増加は、捕食者、病原菌、寄生虫、食物供給によって抑えられ、ある獲物の数が減ると捕食者が別の獲物に切り替えるため、元の獲物の数が回復することによって個体数が調節されている

第2部        生命の論理
動物の個体数の調節や、生理的な機能の調節が必要不可欠ということはわかっているが、調節を律するルールの解明が次の段階
生理現象の調節の、一般的なルール並びにいくつかの特定のルールの発見 ⇒ ヒトを含むあらゆる生物が持つ、いかなるプロセスの調節にも当てはまる普遍的な方法であることが判明
生命の論理と呼ぶ現象を基礎づけるとともに、生態系の規模でも同じルールが作用している

第3章        調節の一般的なルール
生命は通常、分子レベルから生態系のレベルに至るまで、長い多数のリンクから構成される原因と結果の連鎖に支配されている
DNAが生命の第1の秘密だとすれば、アロステリズムが第2の秘密
アロステリック効果とは、タンパク質の機能が他の化合物(制御物質、エフェクター)によって調節されることを言う

第4章        脂肪、フィードバック、そして奇跡の菌類
心臓病に影響するコレステロール合成の抑制物質が重要な医薬品になり得ると考えたのが三共の遠藤章で、コンパクチンという最初のスタチンを発見したが、ヒトの臨床実験の過程でイヌに腫瘍が発見され中止となる
別の観点から効果を確信した研究者がメルクのロバスタチンを試用したところ効果が再確認され、その後の医療革新に繋がる
この医療革新は、ブラウンとゴールドスタインによるコレステロール調節の主要なルールの発見、菌類に自然のレダクターゼ抑制物質を見出そうとした遠藤の努力、メルク社のリーダーほか臨床医の忍耐なくしては起こり得なかった ⇒ ブラウンとゴールドスタインは1985年にノーベル賞、メルクは10年の繁栄、遠藤のみ何も得られなかったが、2003年京都でのコンパクチン発見30周年記念で彼を称えるシンポジウムが開かれ、ブラウンとゴールドスタインは、遠藤がいなければスタチンは発見されなかったし、スタチンの治療によって寿命を延ばすことができた何百万人の人々が遠藤と菌類の抽出物を用いた彼の研究にすべてを負っていると、彼を称賛した

第5章        踏み込まれたままのアクセルと故障したブレーキ
白血病は、白血球の増殖のコントロールが失われる、調節の病
特定のがんに見合った、より効果的で安全な治療法を開発した結果、新タイプの抗がん剤の嚆矢となったのがチバガイギー(現ノバルティス)が開発した直接がん細胞の増殖を阻止する化合物がグリベック ⇒ CML(慢性骨髄性白血病)患者に劇的に効いた
成人の身体を構成する37兆個の細胞には、200を超える細胞型があり、それだけの種類の細胞を生成し維持するには無数の調節が必要
ヒトゲノムを構成する約2万の遺伝子のうち、頻繁に変異の対象になるのは140程度であり、がん遺伝子と腫瘍抑制因子の間でほぼ半々 ⇒ これらの遺伝子の通常の役割に関して、かなりの事実が知られており、それらのほぼすべてが、細胞の分化や生存を調節する中継システム若しくは経路の構成要素をなし、これらシステムや経路は合わせて10程度しか存在しない。また、ほとんどのがんにおいて、これら140の遺伝子のうち28個が変異していることが明らかにされている
97年には、どんながんに対しても特定の変異を標的とする薬は認可されていなかったが、15年には30を超えるその種の薬が出回っている

第3部        セレンゲティ・ルール
動植物の個体群を取り上げ、人体より遥かに尺度の大きな観点から調節のルールを検討し、ルールに関する知見を用いて絶滅に瀕した生物や、動植物の病んだ生息環境を治癒する方法について考察
第6章        動物の階級社会
食物連鎖を、各々の生物が消費する食物によっていくつかの階層(栄養段階と呼ばれる)に分類 ⇒ 生態系のコミュニティでは、一般に各レベルは1段階上のレベルを制限する
個体数はボトムアップで正の調節を受けると考えられてきたが、大地が緑であることは、草食動物が利用可能な植物を食べ尽してしまうことはないことから、逆に捕食者が全体として獲物の数を調節するという説が出てきた
キーストーン種 ⇒ アーチを作るときに両側から上にせり出してきて最後のてっぺんに入れる素材のことで、その素材を外すとアーチそのものが崩壊する(カスケード効果)
生物種の除去や再導入の結果生じる強力なトップダウン効果を「栄養カスケード」といった
ミシガン州スペリオル湖ではヘラジカとオオカミが再導入され、モミの木を大量に消費するヘラジカの個体密度をコントロールすることでオオカミがモミの木の成長を促していることが判明
セレンゲティ・ルール 1. キーストーン種の存在――すべての生物種が平等なのではない
個体数やバイオマス(特定の時点、場所における生物の量)とは不釣り合いに大きな影響を、生物コミュニティの安定性、多様性に及ぼす生物種が存在する。キーストーン種の重要性は、食物連鎖における地位にではなく、その影響力の大きさにある
セレンゲティ・ルール 2. 栄養力カスケードを介して強力な間接的影響を及ぼす生物種が存在する。食物網のメンバーの中には、不釣り合いに強力な「トップダウン」の効果を与える生物種が存在する。この効果は生物コミュニティ全体に普及し、より低い栄養段階を占める生物種に間接的な影響を及ぼす

第7章        セレンゲティ・ロジック
1930年セレンゲティ26,000㎢は閉鎖保護地とされ、37年には一部が鳥獣保護区に指定、51年に国立公園となり、81年にはユネスコの世界遺産に登録
大型哺乳類が集中して生息し、地上を多数の動物たちが移動する、地球上で最後に残された地域の1
人類が誕生したサバンナであり、300万年以上にわたり人類の祖先の本拠地だった
61年頃から水牛とヌーの数が急増した背景には、牛疫の減少があり、牛疫は1889年にイタリアの兵士が軍事作戦の遂行中に感染した牛をインドかアラビアからエチオピアに持ち込んだ時に入って来たとされるが、以後70年に亘ってセレンゲティを抑制してきた
60年代後半タンザニアは社会主義となり、ケニアとの国境を閉鎖するなど外国人の入国を厳しく制限、77年に危険を冒して調査したところヌーの数が16年で5倍に増加し140万頭になっていた
キリンが増えたのは火災が減って若い木の成長を促し餌の増加をもたらしたからで、火災減少の理由は、ヌーと水牛の増加により草食動物の消費が増え乾季に燃える可燃物が減ったことを意味 ⇒ ヌーの増加前は平原の草は5070cmに育っていたが、爆発的な増加で10cmまでしか育たなくなり、草の丈が短くなることで他の植物はより多くの光と栄養を得られるようになり多種多様な植物が育ち始めた。植物の多様化によって、より大規模で多様なチョウのコミュニティが形成された。草は保護されている時より、草食動物に食まれている時の方が豊かに茂るので、ヌーは毎年自らを養ってくれる濃密な「牧草地」の形成を正の調節によって促進する
セレンゲティ・ルール 3. 競争――共通の資源を求めて競い合う生物種が存在する
空間、食物、生息地を求めて競い合う生物種は、他の過剰な生物種を調節することができる
ヌーはセレンゲティにおけるキーストーン種であり、生物コミュニティの構造と調節に大きな影響を及ぼしている ⇒ ヌーの数を調節しているのは何か?
成獣の身体のサイズと、捕食者に対する脆弱性の間に顕著な相関関係がある ⇒ 体重150kgの近辺にはっきりとした閾値があり、それより小さな動物は捕食者によって調節され、大きな動物は調節されていない ⇒ インパラ(50kg)など小型のレイヨウは捕食者の餌食になっているし、小型になればそれだけ捕食者も増える
198087年密猟者がライオン、ハイエナ、ジャッカルなどを絶滅寸前まで追い込んだ時には、小型のレイヨウは増えたが、捕食者が戻ってくるとまた減り始めた
セレンゲティ・ルール 4. 身体サイズは調節の様態に影響を及ぼす
動物の身体サイズは、食物網における個体数調節のメカニズムを決定する重要な要因の1つであり、小型の動物は捕食者によってトップダウンの調節を、大型の動物は食物供給によってボトムアップの調節を受ける
水牛の数は、1970年代には安定。ゾウも19世紀における象牙取引によって激減し20世紀初頭には絶滅に近かったが58年には60頭、70年代中頃には数千頭に増加して安定
どの動物でもその増加率は、個体数の密度に依存している ⇒ 密度依存調節と呼ばれ、負のフィードバック調節の一形態
1993年、35年ぶりにセレンゲティを襲った大旱魃によって食物供給量は例年の数分の一に落ち込み、大量飢餓によって毎日最大3000頭のヌーが死亡、総数は100万頭を切ったが、その後は個体数が安定した
セレンゲティ・ルール 5. 密度――密度に依存する調節を受ける動物種もある
密度依存要因によって個体数が調節され、群れの規模が安定する動物種もある
ヌー(100万頭以上、170kg)と水牛(6万頭、450kg)の差異 ⇒ 移動するかしないか
ヌーには定住性と移動性の2種の群れがあり、移動するのは1年間に950kmほど動き、定住に比べて捕食者による死は定住に比べ1/10しかない
シマウマ(20万頭)やトムソンガゼル(40万頭)も移動によって大きな優位性を保っている
セレンゲティ・ルール 6. 移動は動物の個体数を増加させる
移動は、食物へアクセスする機会を増やし(ボトムアップ調節の緩和)、捕食される機会を減らす(トップダウン調節の緩和)ことで、動物の個体数を増加させる
セレンゲティ・ルールは、地球上に存在するいかなる生態系にも当てはまる普遍的なルールであり、負の調節、正の調節、二重否定論理、フィードバック調節が個体数を調節しているのは、分子レベルでも生命の論理でも同じ

第8章        別種のがん
2014.8.2.オハイオ州トレドで、「水を飲むな、煮沸もするな」との警告が発せられ、50万の大都市が麻痺 ⇒ エリー湖の青緑色の藻類が異常繁殖して毒素を撒き散らした
1976年インドネシアで稲の害虫ウンカの異常発生により立ち枯れとなり、殺虫剤も昆虫の個体密度を上げて逆効果となり、世界最大のコメ輸入国に転落
ガーナ地方のサバンナではヒヒの一種が畑を襲う ⇒ 196804年あらゆる哺乳動物の個体数のセンサスを取った結果、41種のうち40種までが目撃数が減っているのに、火日だけは個体数で3.65倍、生息領域で5倍に増えている
アメリカ東海岸沿岸では18701980年イタヤガイの貝柱が重要な収入源だったが、04年には髭に毒のあるエイの激増により絶滅
エリー湖の藻類の成長は、湖周辺の農場から大量に出るリン(無機リン酸)が直接的な触媒
1972年以来エイを捕食するサメが激減
ヒヒについても、捕食するライオンやヒョウが1986年には急減していた
ウンカの場合はクモが天敵だったが、殺虫剤がクモを殺していた
いずれも捕食者の減少が、被食者の増加を招いているが、もっと言えば捕食者の減少は人間の「やり過ぎ」、リンの過剰投下、殺虫剤の過剰散布、密漁による乱獲等が原因

第9章        6000万匹のウォールアイ(大型の淡水魚)の投入と10年後
1980年代前半、メンドータ湖に藻類と雑草が繁殖して魚が釣れなくなった
マディソンの湖(メンドータ湖が最大)と大学は、北米における陸水学(湖の研究)発祥の地
1987年から3年間で6000万匹以上のウォールアイを投入、これが栄養カスケードの頂点を占める捕食者となって動物プランクトンを食べる魚類が取り除かれ、藻類や植物プランクトンを食べるようになって湖の透明度が増した
1995年イエローストーン公園で6頭のオオカミが70年ぶりに帰還。西部が開拓されてからイエローストーンで繁栄していた60種以上の動物のうち、オオカミだけが欠落したため、エルク=ヘラジカが増え、草木類が大打撃を受け、生態系が破壊されかかっていた
1973年国会は絶滅種の保存に関する法律を通過させたが、家畜の脅威だったオオカミを自然に戻すことには抵抗が強く難航
31頭のオオカミは10年後301頭になっていたが、9504年にエルクは半減、家畜に対する被害は年間損失数の羊で1%、牛では0.01%にとどまった
イエローストーンではポプラの成長が止まっており、1920年代以降に育った木は全体の5%だった。ポプラは若芽を送り出すことで再生するが、特に冬季にはポプラがエルクの食物構成の60%を占めていた。これがオオカミの帰還によってエルクが減少、ポプラの再成長が始まる。土手に生えるコットンウッド(ポプラの一種)やヤナギについても同様
捕食者の再生が、病んだ生態系の治癒の万能薬とは限らない ⇒ 必要ではあるが十分とは言えない

第10章     再生
1970年モザンビークのゴンゴローザ国立公園(アフリカ東海岸の真ん中より南)は、生態系の維持に成功した鳥獣保護区を宣言したが、内戦の勃発と社会主義政党による一党独裁政府の成立により、抵抗線戦の司令部が公園の近くに置かれたため、83年公園は閉鎖、92年まで激しい戦闘の舞台となり、野生動物は食料となった
95年欧州連合が公園内の建物再建を支援するも、地雷で壊滅しかかっていた
02年アメリカの若き実業家がモザンビークの観光業再建、特にゴンゴローザ公園の再生支援に乗り出し、05年には向こう30年に亘って4000万ドルの支援を約束するが、ほとんどの哺乳動物はおらず食物網のあらゆる鎖が切れたままで放置
まずは草食動物の確保から始め、06年周囲の公園から提供された水牛をサンクチュリオという囲いで保護された地区で育て、もともといたシマウマの亜種と、新たにヌーも導入して少しずつ動物を増やす
現在では、まずナイルワニが繁殖、大型レイヨウのウォーターバックやインパラが草を食んでいる
公園の維持だけで周囲の住民に多大の仕事を提供している。特に密猟者との闘いや、象の夜襲から村人を守るのもレンジャー隊員の仕事 ⇒ 周辺は最も貧しい地域で住民のほとんどは基本的な教育も医療も受けられないでいる
熱帯雨林保護のために考えられたのがコーヒーの栽培
その後も内戦が勃発したり、密猟は絶えず、公園の維持には手を焼く
2000年時点では1000頭に満たなかったが現在では4万頭、うち象が535頭、カバが436頭。19種の大型草食動物を数えたら7万頭を超えていた

あとがき――生きるために従うべきルール
最も差し迫った課題とは、私たちが住む世界の健康が蝕まれていることを、そして他の生物はもちろん、人間の生活をも支えている地球の生態系が、それによっていかなる影響を受けているのかを理解すること
人類が環境を過剰に支配するキーストーン種であることについては疑問の余地がなく、その人類がルールを理解せず、世界中の生態系を破壊し続ければ、やがて自滅するだろう
わずか50年前、天然痘で年間200万人が死亡していたが、大規模な予防接種の実施によって多数の国からこの疫病が撲滅されたが、1966年アフリカで感染の疑われた人の周囲に予防接種の輪を作りより少ない人への接種で疫病の拡散を防ぐことに成功。1974年にはインドでも同じ方法で天然痘のアウトブレイクを鎮静化させ75年を最後に撲滅に成功。1977年にソマリアで起こったものが最後になり、80年には完全な撲滅が公式に宣言されて、地球上のいかなる地域でも予防接種は不用となった ⇒ ソマリアではさらに、ポリオについても集中的な撲滅キャンペーンが実施され、31年後には撲滅を宣言
撲滅に成功したヒト疾患は今のところ天然痘しかないが、古代エジプト以来厄災をもたらし続けてきた牛疫ウィルスは、2011年ケニアで最後に感染が発生してから10年後に撲滅が宣言された
天然痘を撲滅する過程を振り返って、当時の当事者が他の公衆衛生プロジェクトにも適用できると考えられる18項目の教訓を挙げている ⇒ 公益の達成を目標とするいかなる困難な課題にも当てはまり、生態系の保護という目標とも密接に関係する
    世界規模の試みは実現可能 ⇒ 人類共通の危機や、共通目標の設定により実現する
    天然痘の根絶は偶然に起こったのではない ⇒ 因果関係の問題で、人々によって意図的に考案された計画の実践の結果である。より良い未来を計画して実現させるという努力を惜しむべきではない
    連合は強力な手段である ⇒ 共通の目標を達成するために、グループや組織間の争いや利己心を抑え、共通の目標に揺ぎ無き焦点を置くことが必要。生態系保護の優先性を訴えるべき
    社会的な意志が重要であり、それを政治的意志に変えていく必要がある ⇒ 政府の支援は、国民の同意に依存する
    解決方法の発見は優れた科学に依存するが、その実行には的確なマネジメントが必要 ⇒ 本書で言及した過去の生態系保護に成功した事例は、それぞれの担当チームの効率的なマネジメントの賜物
    目標は世界規模のものでもあり得るが、その実施は常に地域的なものになる ⇒ 世界規模の試みであっても、無数の地域主導の活動の積み重ねによって可能になる
    楽観的であれ ⇒ 人はたいてい何が起こっているのかを知らずに生きている
    文明の発展の度合いは、人々が互いをどのように扱っているかによって測ることができる ⇒ 住むにふさわしい地球を後世に遺せるか否かは、私たちの行動次第
生態系の問題について、さらに以下の3点を追加
   いかなる問題も、あらゆる場所で同時に解決されたりはしない。進歩は重要であり、世界規模の行動の欠落にくじかれて麻痺するようなことがあってはならない
   重要な試みの実践は、誰もが便乗するようになる時まで待っていてはならない
   個人の選択がものをいう ⇒ 誰もが何らかの方法で貢献することができる







(書評)『セレンゲティ・ルール 生命はいかに調節されるか』 ショーン・B・キャロル〈著〉
20178130500分 朝日
 あの秘密知らないと絶滅するぞ
  どうぶつ村は大さわぎ。
 「ついにニンゲンがの秘密に気づき始めたぞ」
 「なんと、あのか」
 「そうだ。神秘の、生態系のバランスをつかさどる〈調節〉の理(ことわり)だ」
 「お、フジツボっ娘から着信だ。もう50年も昔、アメリカのとある西海岸で動物学者がくぎ抜きでヒトデを岩からひっぺがし、片っ端から海に放り込んでたんだってさ。ご酔狂に何をやっとるんじゃいとじいさまたちはあきれたが、この本を読んで分かった。食物網の実験だったのね、って。
 ヒトデを除去すると、ヒトデの食物のフジツボやイガイが急増して、フジツボたちの食物の藻が食い尽くされる。あれこれ連鎖が起きて入り江の生物は15種から8種へ急減してしまう。この『蹴っ飛ばして観察する』方法で、入り江の『キーストーン種』はヒトデだと判明したってわけさ。ヒトデフジツボ等(など)、つまりヒトデがフジツボやイガイを〈調節〉してたのが生態系のかなめ石(キーストーン)だったんだな」
 「うぜぇ、バスのオヤジが威張りだしたぜ。湖Aのバスを湖Bに移したら湖Bの藻の繁茂が止まった、バス小魚動物プランクトン藻、わしがキーストーン種だわいって」
 「ねえ、どうして『セレンゲティ・ルール』っていうの?」
 「お前、まだ読んどらんのか。情報に遅れると絶滅するぞ。タンザニアのセレンゲティ国立公園でライオンやゾウやヌーの個体数を長期に観測した結果、捕食者による精妙な調節機能をニンゲンたちが発見したからだよ」
 「同じような調節の原理が、生命体の分子レベルでも働いてるって話も載ってたわ。ミクロとマクロの両面からニンゲンの探索が進んでる。きゃー」
 「なあ、わしらも蹴っ飛ばして観察してみるか、ニンゲンをさ」
 「だな。除去作業はウイルス坊主たちに頼もうぜ」
 「もっと賑(にぎ)やかで活気のある生態系になるかもな」
 評・山室恭子(東京工業大学教授・歴史学)
     *
 『セレンゲティ・ルール 生命はいかに調節されるか』 ショーン・B・キャロル〈著〉 高橋洋訳 紀伊国屋書店 2376円
     *
 Sean B.Carroll 60年米国生まれ。ウィスコンシン大マディソン校教授。進化発生生物学が専門。


セレンゲティ・ルール ショーン・B・キャロル著 生物全体に働く制御の法則
2017/8/5付 日本経済新聞
 ショーン・キャロルは、本当におもしろい、読ませる書き手である。本業は進化発生生物学という分野で活躍する生物学者だが、生物学全体をみわたす視点を持った稀(まれ)な才人だ。彼のそんな才能が存分に発揮された傑作である。ジャック・モノーやチャールズ・エルトンなど、分子生物学から生態学まで、優れた研究者がたどった道を振り返りながら、生物全体に働いている法則をあぶり出す。
 ヒトのからだには200種以上もの異なる細胞がある。それぞれがきちんと限度を守って分裂しているからこそ、私たちのからだは正常に動いているのだ。どうやってそんなことができるのか? 磯には、イソギンチャクやヒトデや巻き貝など、たくさんの生物がいる。では、それらの生き物の数はどうやって決まるのだろう?
 これらは異なる現象に対する疑問であり、当然、それらの制御メカニズムは異なるが、もっと抽象化して見ると、生物の制御には、共通の法則があるのだ。それが、「セレンゲティ・ルール」である。
 その一つは、「二重否定による制御」である。つまり、何かの量を制御するのに、一つの量があるのではなく、ある量を増やすように働く要因と、それ自身を制御する要因の2つがあり、それらがうまく働くことで全体が制御されているというものだ。コレステロールの量も、がん細胞の増殖も、アフリカのセレンゲティ平原の有蹄類(ゆうているい)の個体数も、みな同じ。単純に「BがAを抑える」のではなく、「Aを増やすBがあり、Bを抑えるCがある」ので、Aが正常に保たれるのだ。
 生態系は複雑である。鍵になる生物がいなくなると、それがXを引き起こし、それがさらにYを引き起こし、という具合にどんどん連鎖が起こる。なぜ「風が吹くと桶屋(おけや)が儲(もう)かる」ことになるのか、説得力のある説明である。
 ヒトが行っている経済活動も、言ってみれば、生物間の相互作用の一つである。競争、密度、サイズの影響など、想像力を働かせれば、ここに書かれていることの多くは、経済活動にもやはり当てはまるだろう。壊れた生態系を復元する試みから得られた「教訓」は、経済危機からの回復にもきっと役に立つに違いない。
原題=THE SERENGETI RULES
(高橋洋訳、紀伊国屋書店・2200円)
著者は米ウィスコンシン大マディソン校教授。
《評》総合研究大学院大学学長
長谷川 眞理子

 セレンゲティ国立公園は、タンザニア連合共和国北部のマラ州アルーシャ州シニャンガ州にまたがる、自然保護を目的とした国立公園。アフリカで一番良く知られた国立公園の1つ。1981ユネスコ世界遺産(自然遺産)に登録された。セレンゲティとはマサイ語で「果てしなく広がる平原」の意。

概要[編集]

キリマンジャロの裾野に広がる大サバンナ地帯にある。そのうちの多くが広々とした草原で疎林や低木林がみられる。川や沼、湖もある。平原の所々に岩石が露出している[1]。面積は14,763km2で、四国18,297.78km2)や関東平野(約17,000km2)の8割程度に及ぶ。国立公園内には、様々な動物が約300万頭生息していると推定されている。
セレンゲティを代表する動物は、ヌーである。生息している動物の約3割がヌーであるといわれている。ヌーは、雨季と乾季で草原を求めて、隣接しているケニア側のマサイマラ国立保護区へと1,500kmの移動を繰り返す。雨季となる12月から6月の間は、地平線をヌーが埋め尽くし、壮観である。

主な生息動物[編集]

·        オオミミギツネ
·        カバ
·        キリン
·        シマウマ
·        チーター
·        トムソンガゼル
·        ヌー
·        ブチハイエナ
·        ライオン

世界遺産[編集]

登録基準[編集]

この世界遺産は世界遺産登録基準における以下の基準を満たしたと見なされ、登録がなされた(以下の基準は世界遺産センター公表の登録基準からの翻訳、引用である)。
·        (7) ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。
·        (10) 生物多様性の本来的保全にとって、もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいるもの。これには科学上または保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種の生息地などが含まれる。


いま注目のサファリリゾート アフリカで「野生」満喫 旅エディター・ライター 坪田三千代
2017/3/21
(写真=山口規子)
 アフリカのサファリというと、「ほこりまみれで汚いでしょ」「体力的にきついのでは」などと言われることがある。だが、設備の整ったロッジでは、一定のルールを守れば、思いのほか快適にサファリライフを満喫することができる。
 もし地球上に人間がいなかったら、動物たちが繰り広げる野生の世界はどんなものだったのだろう――。そんなことを思わせる体験は、五感のインパクトとともに心に深く刻みこまれ、大きな感動を得られる貴重な機会だ。
 タンザニアのセレンゲティ国立公園にある「フォーシーズンズ サファリロッジ セレンゲティ」(以下フォーシーズンズ)を例に、サファリリゾートの醍醐味を紹介しよう。
ロッジの周囲すべてがサファリの舞台
アフリカゾウがロッジ近くの水飲み場に集まってくる(写真=山口規子)
 キリマンジャロ国際空港で小型機に乗り換え、サバンナの中に設けられたエアストリップ(簡易滑走路)に降り立つ。そこから車で45分。ロッジに到着したとたん、スタッフから「今、ゾウの群れがプールに来ていますよ!」と声がかかる。
 小走りで向かうと、20頭ほどのアフリカゾウが水飲み場に集まり、のんびりと憩っていた。ゾウの群れがいるのは、プールの縁からわずか10メートルほどの距離。一生懸命に水を飲む子ゾウのしぐさがなんとも愛くるしい。
 セレンゲティは、キリマンジャロの裾野に広がる壮大なサバンナ。ユネスコの世界自然遺産にも登録された自然保護を目的とした国立公園で、約300万頭ものさまざまな動物が生息する。サバンナの中にポツンと建つロッジでは、周囲のすべてがサファリの舞台。いながらにして野生動物を眺められることもあるし、専用の四輪駆動車で動物を探して遠乗りするゲームドライブは、サファリのメインアトラクションだ。
ゲームドライブでライオンも間近に
ライオンの行動を邪魔しないようサファリカーの中から観察(写真=山口規子) 
 そもそもサファリとは、スワヒリ語で「長い旅」。転じて狩猟旅行を意味したが、近年は野生動物を観察するツアーのことをサファリ、もしくはゲームドライブやゲームウオッチングと称している。
 ゲームドライブが行われるのは、主に野生動物が活動する朝と夕方。動物観察のプロであるレンジャーが運転するサファリカーに乗り、23時間のドライブで、動物を探し、可能な限り近寄って、静かに観察する。
 「ライオンが近くにいる!」
 道に残された足跡を見て、レンジャーが静かに車を進めていく。足跡の新しさで、どのくらい前に道を通ったかを判断するのだ。
木の枝から葉っぱを食べるキリン。なかなかに優雅(写真=山口規子)
 雌ライオンが、サバンナのけもの道を悠々と歩いていた。車で1メートルほどのところまで近寄っても、全くこちらを気にする様子はない。前脚で顔をなで、草の上にごろりと寝転ぶ様子は、まるで大きなネコ!
 哺乳動物は、車をある種の動物のように認識しているのだという。そのためサファリに参加する際は、赤などの原色、つまり動物にとって警戒色の服の着用は原則的に禁止。車の中で突然動いたり、大きな声を出したりするのも厳禁だ。緊張感を持って、静かに、動物を敬う気持ちで観察すべし。
ライオン、チーター、バファロー、ヌー、シマウマ、キリン、セグロジャッカル、インパラ。さて、次はどんな動物に出合えるのか。ゲームドライブは、探索-発見-観察-移動-探索-発見-観察-移動……の果てない繰り返しだが、不思議と飽きることがない。動物が見つからないときは、どこまでも広がる草原の地平線や、空を眺めやるだけでも爽快だ。
動物の観察には双眼鏡が必携、カメラはズーム付きがほしい(写真=山口規子) 
(写真=山口規子)


弱肉強食の世界 目の当たりに
サバンナの先に美しい地平線が広がる(写真=山口規子)
 私のサファリ体験はこれまで30回ほどだが、初めてのゲームドライブの際、忘れがたい光景を見た。夕暮れ時、車の前に飛び出してきたインパラの喉に、1匹のワイルドドッグが噛みついた。すぐに群れの残り6匹のワイルドドッグもインパラを囲み、噛みつき、肉を食らい、骨になるまでしゃぶり尽くした。
 ずっと集中して観察すること、2時間ほど。その一部始終、音やにおい、次第に暗くなる光の移り変わり、最後に残された骨のあっけらかんとした絵は、今も生々しく心に残っている。人間が立ち入ることのできない、尊厳ある野生の世界の現実。弱肉強食の現場を目のあたりにして、心がざわざわするような、日常との乖離(かいり)を強く感じた。
歩くのも、空から見下ろすのもサファリ
プライベートプールが備わったヴィラもある(写真=山口規子)
 サファリロッジのタイムスケジュールは、動物優先で組まれている。朝と夕方、動物が活動する時間は人間もゲームドライブに出かけ、動物が寝ている昼間は人間もロッジでくつろぐ。プールやスパが備えられているところもあるので、のんびりリラックスしたい。ゲームドライブの間は、トイレ休憩を除くと、車から降りることは基本的にできないので、足腰のストレッチなども欠かさずに。
 ロッジには、自然や動物に詳しい専門家が常駐しているところが多く、昼間にゲスト向けの講義が行われることもある。また、ロビーなどにログブック(日誌)が置いてあるので、きのうはどのあたりでどんな動物が見られたか、チェックするのも面白い。
足もとに落ちているのは何の骨? ウオーキングサファリで(写真=山口規子)
 サファリは車だけでとは限らない。ロッジの周囲を歩きながら、昆虫や植物、動物の足跡などを観察するウオーキングサファリも意外に面白い。大きな捕食動物と鳥や虫が共生する様子や、地域独自の植生や生態系を知ることができる。
 気球や小型飛行機で上空から動物の群れを観察するのも、これまたサファリ。天、地、人の視点とでもいおうか、いろいろなアングルから動植物を眺めることで、その場所への理解もぐんと深まる。
動物たちの息づかいにドキドキする夜
暗くなると、ロッジの周囲には動物たちの息づかいが感じられる(写真=山口規子)
 夕方は、またゲームドライブへ。夜行性の動物が活発になる時間帯は、昼間寝ていたライオンの群れがのっそりと起きてきて、捕食に出かける様子なども見られる。鳥のさえずりが聞こえる静かな昼間とは異なり、動物たちの遠ぼえが聞こえてくる夜は、ちょっとドキドキする時間帯だ。


2017/3/21
ティラピアのソテー オクラ添え マンゴとパパイヤのソース(写真=山口規子)
 日が暮れて星が輝くころにロッジへ帰還。サファリロッジでは、ビュッフェスタイルの料理を提供するところが多いが、フォーシーズンズでは、街なかの高級ホテルと同様のおいしい食事がアラカルトで楽しめる。サバンナの真ん中、見渡す限り村も家もないへき地で、これほどの美食が楽しめるのはなんとも不思議だが、そこが「ラグジュアリーロッジ」といわれる理由の一つだ。
 夜間はロッジの要所要所にマサイ族のガードが立ち、動物たちの出現を見張っていてくれる。現地部族との共存や雇用機会の創出も、近年はサファリロッジの使命だという。 
 「バホッ」「ブヒヒヒ」「ピーーッ」。暗闇から漏れ聞こえてくる動物たちの鳴き声に、少しだけ緊張しつつ耳を澄ませ、部屋の窓から満点の星を眺める夜。これもまた一生の思い出に残るはずだ。
食事や飲み物はインクルーシブで気軽
地ビールもおいしい(写真=山口規子)
 さて、気になるのが費用面。ロッジのレベルや季節により異なるが、たとえば、「フォーシーズンズ」なら2人で11室が1000ドル程度から。確かに値は張るが、3食とハウスワインやビールを含む飲み物代が込みで、10歳以下の子どもは大人と部屋を一緒にする場合は無料。アフリカまでの移動費と時間はかかるものの、現地費用は日本の高級旅館並みともいえる。
 移動や現地での動きを考えると、最低3泊はしたいところ。旅行会社のツアーを利用するのもいいし、ある程度の英語力があれば、近隣の国際空港からの小型飛行機での移動手配を含めて、ロッジとメールのやり取りで予約することもできる。
 アフリカで観光客向けのサファリロッジが多くある国は、ケニア、タンザニア、ボツワナ、南アフリカ。一口にアフリカのサファリといっても、国やエリアによって動物相や植物相が異なり、楽しみ方にも個性がある。ただし、いずれも野生動物の世界に驚きと感動を覚え、人間の社会や生活、ひいては我が身について考え、さまざまな知識欲をくすぐられることは間違いない。
 日々、地球上から失われつつある野生の世界。その貴重なシーンに触れるために、時間と費用をかける価値は、きっとある。
部屋にいながらにして、広大なサバンナを眺める気持ちよさ(写真=山口規子)
坪田三千代(つぼた・みちよ)
旅エディター・ライター
女性誌や旅行誌を中心に、旅の記事の企画、取材や執筆を手がける。海外渡航先は70カ国余り。得意分野は自然豊かなリゾート、伝統文化の色濃く残る街、スパ、温泉など。


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