世界の果てのありえない場所  Travis Elbotough & Alan Horsfield  2017.8.16.

2017.8.16. 世界の果てのありえない場所 本当に行ける幻想エリアマップ
Atlas of Improbable Places  2016

著者
Travis Elbotough 1971年生まれ。作家、文明評論家。『オブザーバー』紙や『ガーディアン』紙の定期寄稿者。車体の後部がデッキになっているルートマスター・バスの歴史を描いた『The Bus We Loved』などの著作。英国の有力紙誌、BBCラジオなどで活躍中
Alan  Horsfield 地図作家。英国陸地測量部でキャリアをスタートさせ、30年間に数多くの出版物に地図作品を提供

訳者 小野智子

発行日           2017.5.22. 発行
発行所           日経ナショナルジオグラフィック社

はじめに
地図にはまず語られるべき物語がなくてはならない。なぜなら、地図が描くのは旅、遥かな冒険の物語だから
世界はまだ目くるめく変化に溢れている
本書は、想像を超えた場所、奇妙な景観、辺境の地などを取り揃えて紹介するもの
それぞれの場所について、ありえそうもないと思われる理由を、そこにある構造物の種類や自然の地形、現在や過去の状態など、いくつかの要素によって分類

²  夢の創造物
Ø  Flevopolder, Netherlland ⇒ フレボラント干拓地。紀元前500年頃に築かれた盛り土の丘。土木技師たちにとっての長年の悲願
「世界は神が創り、オランダはオランダ人が造った」
Ø  Zheleznogorsk(ジェレズノゴルスク), Russia ⇒ シベリアの閉鎖都市。1950年スターリンの構想にもとにプルトニウム製造の中心地として建設された都市。公になったのは1992
Ø  Free Christiania(自由自治区), Denmark ⇒ 反政府活動化のグループが軍の放棄した兵舎を占拠したことに始まる
Ø  Auroville, India ⇒ 「インテグラル・ヨガ」の創始者であるインド人思想家の理念と、ル・コルビジェの崇拝者であるフランス人建築家の設計とが1つになって1968年に生み出されたインド半島東側の国際都市。規則や金銭、指導者に束縛されることのないスピリチュアルな理想郷を目指した
Ø  Slab City, California(San Diegoの東225km) ⇒ スラブとはコンクリートの床の意。「アメリカ最後の自由の地」として親しまれる無断居住者のコミュニティ。元は海兵隊の訓練基地。コンクリートの破片や瓦礫が散乱。人は人、自分は自分という考え方で成り立つ
Ø  Port Meirion, Wales, U.K. ⇒ 「西欧最後のフォリー(無用の大建築)」「巨大な小人たちの村」と呼ばれ、裕福な地元の建築家がイタリアの港町を再現して創った村。1926年英国が初めてリゾート開発を目的に作られた村で、映画界のセレブを惹きつけた
Ø  Zvyozdny Gorodok(ズビョーズドヌイ・ゴロドク、改称後Star City), Russia ⇒ 「閉鎖軍事地域第1号」と呼ばれ、ガガーリンを始めとする宇宙飛行士たちが飛行中の孤独に耐えられるかどうかの実験が社会から隔絶された環境に置かれて行われた
Ø  Hearst Castle, San Simeon, California ⇒ 『市民ケーン』のモデルとされる20世紀の新聞王ランドルフ・ハーストの華麗な豪邸

²  廃墟となった場所
Ø  Teufelsberg(「悪魔の山」の意), Berlin ⇒ 西ベルリンにあった連合軍占領期間中の通信傍受施設があった
Ø  Presidio Modelo, Cuba ⇒ 悪名高き刑務所。「一望監視施設」の代表例として名高い。1926年マチャド大統領によって開設。弾圧に利用
Ø  軍艦島, 長崎 ⇒ 正式名称「端島」で、三菱の海底炭鉱があった(191674)
Ø  No Man’s Land Fort, England ⇒ 1860年パルマーストン首相が造った対仏を意識した海上要塞。完成した頃には無用の長物となり、「パルマーストンの愚行」と揶揄。2008年高級ホテルとして再建
Ø  San Juan Parangaricutiro, Mexico ⇒ 1943年パリクティン火山の噴火で埋もれ、8年かかって完全に溶岩で覆われ教会だけが唯一残った
Ø  Humberstone & Santa Laura Saltpetre Works, Chile ⇒ 火薬の主成分である硝石の世界最大の鉱床。アタカマ砂漠と呼ばれ、地上で最も降水量の少ない乾ききった大地。1862年英国の投資によって開発されたが、第1次大戦直前人工硝酸塩の開発で破綻。1970年国定史跡に指定され硝石の歴史を残す遺構として保存
Ø  Wonderland, Beijin ⇒ 北京郊外に出来た「アジア最大のテーマパーク」のはずだったが、1998年後ろ盾の政治家の逮捕で頓挫
Ø  Oradour Sur Glane(オラドゥール=シュル=グラヌ), France ⇒ 仏中南部のリムーザン地方は豊かな田園地帯だったが、1944年ナチスによって住民646人が虐殺された。ド・ゴールは破壊されたままの村を残し隣に新しい村を再建。地元の羊飼いの黒いマントはリムーザンと呼ばれ、「リムジン」の語源と見做されている
Ø  MuynakUkbekistan ⇒ アラル海の干上がった漁港。かつて旧ソビエトの食べる魚の1/6を供給していたが、1950年代の綿花栽培のための灌漑計画でアラル海に流入する水の量が激減し、湖底が塩を大量に含む砂地となった
Ø  Wittenoom, Australia ⇒ 豪州大陸の西北のピルバラ地域は、1938年に発見されたアスベストの一種である青石綿(クロシドライト)の世界的産地。白石綿の最大100倍もの毒性があるが、絶縁材や断熱材、舗装材としての需要に沸いたが、健康リスクを告発する報告書の発表により66年に閉山し炭鉱の町も閉鎖されたが、半世紀たってもアスベストは町中を覆っている。07年豪州政府は正式に町を閉鎖、地図からも抹消
Ø  Ani Ruins, Armenia ⇒ 廃墟となったアルメニア王国の古都。16年ユネスコの世界遺産に登録。有史以前から人が定住、BC961年アルメニアのバグラティド朝の首都
Ø  Concrete City in Nanticoke, Pennsylvania ⇒ 米国最大の無煙炭産出地。劣悪な環境に置かれた炭鉱労働者の環境改善を目的に1911年野心的な従業員用住宅が建てられた。アメリカにおける計画的住宅建設の先駆け。廃墟のまま現存
Ø  Varosha, Cyprus ⇒ 国連緩衝地帯の北、トルコ支配地域に残る廃墟となった観光リゾート。1960年代建設の「サイプレスのコートダジュール」とまで呼ばれた高級リゾート。74年トルコ軍が島の北部1/3を占拠した結果、廃墟と化した。廃墟にはいまだに70年代の華やかなドレスや車などが残る

²  風変わりな建造物
Ø  Stonehenge Memorial in Maryhill, Washington St. ⇒ 1918年第1次大戦の戦没者慰霊を目的にクエーカー教徒が建設したレプリカ。"約束の地に希望の都市を建設したが廃墟となり、レプリカだけが残った
Ø  Euro Bridge in Spijkenisse(スパイケニッセ), Rotterdam ⇒ 「実在する」架空の橋。1996EMIが欧州通貨ユーロのデザインを決める際、12か国で7種類の通貨だったため、特定の国の実在の橋に代わって歴史上実在した橋を絵柄にしたが、9年後になって紙幣のモデルになった橋を復元することになったのが7つのEuro Bridgeで、今は観光地
Ø  Kabayan Mummy Caves, Phillipines ⇒ イバロイ族のミイラ洞窟。遺体をミイラにして葬ったが、その防腐処理は独特。大量の塩を食べさせて死なせた後燻製にする
Ø  Santurio Madonna Della Corona(マドンナ=デッラ=コロナ聖所記念堂), Verona, Italy ⇒ アルプスのイタリア側バルド山の標高774mの絶壁に建てられた聖堂。1522年建立。1970年代に大改修。絶壁に沿った参道と1540段の階段が信仰心の厚さを試す
Ø  London Bridge in Lake Havasu City, Arizona ⇒ 石油王が売りに出された1831年建造のLondon Bridgeを買収して1963年に砂漠の街に新しく建設した都市に移設、古き良きロンドンを再現した観光スポットとなり、197080年代に最盛期を迎えた
Ø  African Renaissance Monuent in Senegal ⇒ 西アフリカの国の独立の象徴。49mの像は天然の台座となっている火山も含めると150mあり、NYの自由の女神やリオのキリスト像より高い。1990年頃北朝鮮の建設会社によって建立された男女の半裸像は、イスラム教徒や貧困層からの批判に晒され、支払いは国有地が提供された
Ø  Ten Commandments in Fields of the Wood, North Carolina ⇒ 1940年代聖書をテーマにした80haの公園に、幅1.2m高さ1.5mのコンクリート製の白い文字で書かれた世界最大の十戒

²  隔絶された世界
Ø  The Palm in Dubai ⇒ ドバイ首長マクトゥームが266万㎥の浚渫土砂を埋めて作った人工島のパラダイス。17枚の葉をつけたヤシの木の形をしたPalm Jumeirahだけでハイドパークの4倍、ドバイの海岸線を64kmも延長させた。08年の金融危機で残り2つの島の開発は頓挫
Ø  Redonda Island, リーワード諸島、カリブ海 ⇒ レドンダ王国はカリブ海の岩礁にある夢想の国家。肥料の原料となるリン酸塩の鉱脈が開発されたが、地元の貿易商が領有権を主張して勝手に王国を作ったが、英国政府が併合したため、領土のない王国だけが残り、現在でも王国の覇権争いが続いている
Ø  Poveglia Island, Venice ⇒ 1340年代以降ペスト患者を隔離した呪われた島だったが、2014年財政が逼迫したイタリア政府が売りに出し、40万ポンドでイタリア人ビジネスマンが落札、観光開発が計画されている
Ø  Great Blasket Island, Ireland ⇒ 1954年から無人島。17世紀後半から人が定住したが、ほとんど自給自足の生活。1922年共和国の独立の戦いの中で伝統的な固有の口承文化の伝わる貴重な土地。1954年最後の島民が島を去って以降無人化
Ø  Holland Island, Maryland ⇒ チェサピーク湾に浮かぶ波に消えゆく島。1915年異常な速さで浸食が進み住民は退去。個人が買い取って土地の消失に努めたが2011年には満潮時にも完全に水没
Ø  Palmerston Island, Cook Islands ⇒ 1774年クックが発見した最果ての島。ニュージーランド政府の管轄下にあるが、個人が所有し、その親族だけによる理想の共同体が今も残る。2015年最新のソーラーパネルが設置され24時間電気が供給。人口比の大型冷凍庫保有数世界一。冷凍のブダイは島の有力な輸出品
Ø  Wrangel(ウランゲリ) Island, Russia ⇒ BC1650年頃までマンモスが生息。年平均240日は雪に埋もれるかつて氷河に閉ざされた島。現在は様々な動植物の楽園。1881年米国人によって発見されたが、1916年帝政ロシアの自治領に加え、76年以降はソ連の自然保護区に制定。世界で一番遠く、一番自然が守られ、保全という合言葉が生き続ける
Ø  Mount Roraima, Venezuela ⇒ 3つの国境にまたがる巨大なテーブルマウンテン(卓状台地)。カナイマ国立公園内。1838年詳細な記録が公表されたが、1912年コナン・ドイルがロライマをモデルに『失われた大陸』を発表し映画化されて大ヒット、一気に世界の注目を浴びる。1000mを超える絶壁の上にある標高2810mの頂上はいつも霧で包まれ、ここでしか見ることのできない動物が生息
Ø  Ross Island, India ⇒ 1780年代発見されたアンダマン諸島の1つに、1857年の第1次インド独立戦争以降英国領インドの流刑地、セルラー刑務所が建設され、イギリス人が住んだのが瀟洒な邸宅のあるロス島。1941年のインド洋大地震ですべて崩壊、第2次大戦中は日本軍が上陸してトーチカを築き、戦後英領とされたがすぐ放棄され、現在はインド海軍の管理下。英国によるインド支配の夢破れた残骸となっている
Ø  Hirta Island, Scottland ⇒ かつてイギリス諸島の中で最も隔絶された辺境の地、セントギルダ群島最大の島。19世紀までは完全な自給自足。現在は無人。1957年スコットランド・ナショナル・トラストの所有となり、毎年調査が続けられている

²  この世とあの世の間
Ø  青木ケ原樹海 ⇒ 富士の裾野に広がる悪霊の森。ゴールデンゲートに次ぐ世界で2番目の自殺の名所。松本清張の『波の塔』(1960)以来自殺志願者が殺到。日本では「切腹」の儀式があり、精神の"高潔"を守る伝統が現代日本でも自殺者が多いことの1つの理由
Ø  Colma, California ⇒ 町の面積5.8㎢の73%を17カ所の墓地が占める。ゴールドラッシュの時代に墓所として発展、1887SF市内での遺体埋葬禁止令が出て一気に近郊のコルマが注目された
Ø  Leap Castle(レップ城), Ireland ⇒ 世界一幽霊が出る城。歴代血で血を争う後継争いをしてきたつけ。1922年炎上、廃墟のまま放置されたが、91年ミュージシャンが住むようになる
Ø  Darvaza Crater(Door to Hell), Turkmenistan ⇒ カラクム(黒い砂)砂漠で1971年以来燃え続けている、幅69m深さ30mの巨大な穴は煉獄の穴そのもの、噴き出す天然ガスが燃え続ける
Ø  Hill of Crosses(十字架の丘), Lithuania ⇒ 100,000本の十字架が立つ丘。1831年ロシアの支配に農民が抵抗した際、犠牲者の鎮魂の記念碑として十字架を立てたのが始まり。第2次大戦後もソ連邦に編入され、スターリンの宗教的行為禁止に反発したキリスト教徒が大量追放され、十字架の丘が追悼と抵抗の場となった
Ø  The Island of Dolls, Xochimilco, Mexico ⇒ メキシコ市のはずれのソチミルコ(「花園」の意)地区はアステカ文明の水上都市の面影を僅かに残し、世界遺産に指定。運河で溺れた少女の追悼として残された人形を木に吊るしたのが始まり、次々に同じ様な人形が吊るされるようになり、不気味な光景を展開、恐怖のアトラクションとなっている

²  地下の世界
Ø  Mail Rail, London ⇒ 隠れた大動脈。世界初の地下鉄路線がロンドンに1853年開業。1927年開業の地下郵便鉄道は世界初の自動運転で8カ所の駅を郵便物を載せて往復。87年にはMail Railと名付けられて広く知られたが、現在は廃線。観光利用を計画中
Ø  冷戦時代のスパイトンネル、Berlin ⇒ CIAMI6」が協働で東ベルリンのソ連の電話を西ベルリンで盗聴するための施設として、450mのトンネルを掘り172本の電話線に盗聴装置を仕掛けるが、MI6にいた二重スパイによって露見。連合国博物館内に展示
Ø  北京地下城、北京 ⇒ 1969年中ソ国境で小競り合いが勃発、キューバ同様核戦争の瀬戸際にまで追い込まれた。毛沢東は来たるべき核攻撃に備えるため、4年前にモスクワ技術支援で建設が開始された地下鉄を核シェルターに転換、北京の6百万全市民を収容する都市「北京地下城」の建設を計画。2000年には一部が一般公開されたが、08年閉鎖
Ø  Tunnels of Moose Jaw, Saskatchewan ⇒ 1850年代のゴールドラッシュや鉄道建設のためにカナダにやってきた中国人に対し150ドルの人頭税が賦課され、さらに白人からの襲撃に備えるためもあって地下に潜り、州都ムースジョーには1900年代初め巨大な地下のチャイナタウンが出現、居住者の大半は違法労働者。20年代にはアル・カポネがトンネルの常連となる。1970年代、の地下にはトンネルが張り巡らされているという噂が広まり、90年代後半に修復され一般公開
Ø  放棄された地下鉄、Cincinnati ⇒ デトロイトやインディアナポリスと並ぶ自動車産業の中心地のシンシナティはフォードの中心地だが、1915T型フォード製造工場開業の1年後路面電車に代わる地下鉄建設が始まるが資材不足で頓挫、計画は中止となり、51年に廃止した路面電車が2016年には復活の予定
Ø  タガンスキーのバンカー42Moscow ⇒ 冷戦時代1956年完成した全面核攻撃にも耐えられるという地下60mの極秘通信施設。かつて「タガンスキー防護司令部」と呼ばれ、06年民間企業に売却され、現在は「バンカー42」の名で博物館兼娯楽施設として公開
Ø  Puerto Princesa, Phillipines ⇒ パラワン州の州都にある地底河川国立公園は、新世界七不思議財団New7Wondersが世界中に投票を呼びかけて選出した自然部門7カ所のうちの1つ。「船で辿ることのできる世界最長の地下川」と言われ、全長8km、幅最大122m高さ61m。数世紀に亘って石灰岩の表面が塩水の干満に晒された結果生じた鍾乳石が洞窟の壁や天井を覆い尽くす                                                                                              
















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