ポピュリズムとは何か  水島治郎  2017.7.20.

2017.7.20.  ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か

著者 水島治郎 1967年東京都生まれ。東大教養卒。東大大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。甲南大助教授、千葉大法経助教授を経て現在千葉大法経教授。専攻はオランダ政治史、ヨーロッパ政治史、比較政治

発行日           2016.12.25. 発行
発行所           中央公論新社(中公新書)

イギリスのEU離脱、反イスラムなど排外主義の広がり、トランプ米大統領誕生――世界で猛威を振るうポピュリズム。「大衆迎合主義」とも訳され、民主主義の脅威と見られがちだ。だが、ラテンアメリカではエリート支配から人民を解放する原動力となり、ヨーロッパでは既成政党に改革を促す効果も指摘される。一方的に断罪すれはすむものではない。西欧から南北アメリカ、日本まで席巻する現状を分析し、その本質に迫る


はじめに
ポピュリズムは、デモクラシーの後を影のようについてくる
特に民主主義の先進地域とされるヨーロッパで、ポピュリズム政党の伸長は顕著
本書の目的は、現代世界で最も顕著な政治現象であるポピュリズムを正面から取り上げ、解明を試みること
世界各地におけるポピュリズムの躍進をどう見ればいいのか、という問題意識を踏まえ、ポピュリズムを理論的に位置付けたうえで、ヨーロッパとラテンアメリカを主たる舞台とし、日本やアメリカ合衆国にも触れながら、ポピュリズム成立の背景、各国における展開と特徴、政治的な影響を分析。ポピュリズムの持つ多面性、その功罪を明らかにすることで、現代デモクラシーの「隘路」としてのポピュリズムの姿を明らかにする
特に本書を通じて提起したいのは、ポピュリズムとはデモクラシーに内在する矛盾を端的に示すものではないかということ
現代デモクラシーを支える「リベラル」な価値、「デモクラシー」の原理を突き詰めるほど、ポピュリズムを正統化することになる

ポピュリズムとは何か
ポピュリズムとデモクラシーの関係について検討
ポピュリズムは民主主義(デモクラシー)と両立しがたい、一種の権威主義的な政治運動
かつてのポピュリズムは、少数派支配を崩し、デモクラシーの実質を支える解放運動として出現  19世紀末のアメリカ合衆国、20世紀のラテンアメリカ諸国
特にラテンアメリカにおいて、労働者や多様な弱者の地位向上、社会政策の展開を支えた重要な推進力の1つがポピュリズム的政治だった
ポピュリズムの持つ「2つの論理」=「解放の論理」と「抑圧の論理」の理解が重要
定義1:固定的な支持基盤を超え、幅広く国民に直接訴える政治スタイル
定義2:「人民」の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動(本書の立場)
特徴1:主張の中心に「人民」を置く  ポピュリズム政党は、自らが「人民」を直接代表すると主張して正統化し、広く支持の獲得を試みる
特徴2:エリート批判  「タブー」破り
特徴3:「カリスマ的リーダー」の存在
特徴4:イデオロギーにおける「薄さ」  具体的政策内容で定義することは難しい
ポピュリズムとデモクラシーの関係  ポピュリズムの主張の多くは、デモクラシーの理念そのものと重なる面が多い。人民主権と多数決制を擁護する以上、本質的に民主的
近代デモクラシーを支える2つの原理の間には緊張関係がある  近代デモクラシーには「立憲主義的解釈」と「ポピュリズム的解釈」があり
ポピュリズム政党への対処法1:「孤立化」
2:「非正統化」
3:「適応」・「抱き込み」
4:「社会化」  ポピュリズム政党に積極的に働きかけ変質を促す

解放の論理――南北アメリカにおける誕生と発展
ポピュリズムにおける「解放のダイナミズム」は、南北アメリカにおいて本領を発揮

抑圧の論理――ヨーロッパ極右政党の変貌
現代ヨーロッパのデモクラシーが、1990年以降、ポピュリズム躍進の舞台となった理由
グローバル化やヨーロッパ統合の進展、冷戦の終焉といったマクロな変化の中で、それまで各国で左右を代表してきた既成政党の持つ求心力が弱まり、政党間の政策距離が狭まったこと
政党を含む既成の組織・団体の弱体化と、「無政党層」増大
グローバル化に伴う社会経済的な変容、とりわけ格差の拡大
現代のヨーロッパで伸長しているポピュリズムの特徴
マスメディアを駆使して無党派層に広く訴える政治手法
「デモクラシー」に対する姿勢 や 当初は極右だが、80年代以降転回し民主的な原理を基本的に受容
政策面における「福祉排外主義」の主張  福祉・社会保障の充実を支持しつつ、移民を福祉の濫用者として位置付け、福祉の対象を自国民に限定

リベラルゆえの「反イスラム」――環境・福祉先進国の葛藤
反イスラムを主張して支持を集めているのがヨーロッパ各国のポピュリズム政党
既成政党の無策を批判するとともに、イスラム批判を一層声高に唱える

国民投票のパラドクス――スイスは「理想の国」か
近年のヨーロッパでは、近代西欧が育んできた「リベラル」な価値観がいわば「反転」を見せ、むしろ強固な「反イスラム」の理論的根拠を提供するに至った
近代ヨーロッパの育てたもう1つの政治的価値である「デモクラシー」に着目し、その「民衆による支配」を語源とするデモクラシーの論理を究極的に体現した国民投票が制度化されたスイスで、国民投票を梃子としてポピュリズム政党が伸長
中央政府の行動を抑える決定的な制度的仕組みとして導入されたのが国民投票

イギリスのEU離脱――「置き去りにされた」人々の逆転劇

グローバル化するポピュリズム
2016年の米大統領選におけるトランプの主張がラストベルトの労働者の支持を獲得  大西洋の両岸で同じような動き。「置き去りにされた」人々との共通性は興味深い
日本で、2012年の総選挙で躍進した「日本維新の会」の動きがポピュリズム的政治手法

さらなる論点
現代のポピュリズムにおける「リベラル」な「デモクラシー」との親和性  設立当初は反体制色が強いが、その後転回を果たし、デモクラシーの枠内で活動
ポピュリズムは一過性のものではなく、ある種の「持続性」を持った存在  初代指導者のカリスマ性が無くなった後も適任のリーダーが育っている
ポピュリズムが現代政治に与える「効果」  デモクラシーを謳う既成政党の「改革」と「再活性化」に強い影響を及ぼす

ポピュリズムは、上品なディナー・パーティに現われた、なりふり構わず叫ぶ泥酔客、招くべからざる人物のような存在だが、時として出席者が決して口にしない公然の秘密に触れることで人々を内心どきりとさせ、ずかずかとタブーに踏み込んで隠されている欺瞞を暴く存在でもある



2017.3.19. 朝日

(書評)『ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か』 水島治郎〈著〉
メモする
 世界で同時並行する現象を分析
 政治学の世界というのは細かな分業から成り立っている。政治史の分野だけでも欧州や米国、日本などに分かれ、さらに欧州の中で英国やフランス、ドイツなどに分かれる。各国の専門家はひたすら史料にあたりつつ、それぞれの国の歴史を研究するわけだ。
 著者の専門はオランダ政治史である。こういう場合、他国のことに話が及ぶと「私は素人なのでよくわかりません」と答えるのが学界のエチケットとされている。だが著者は、本書であえて蛮勇を振るっている。専門のオランダを含む欧州全体ばかりか、南北アメリカや日本のポピュリズムまでもが広く対象とされているからだ。
 その蛮勇は、高く評価されるべきである。政治学という学問は、専門性の高い職業人を養成する法学や医学と比べて、一般市民の日常に深く関わっている。ゆえにポピュリズムのような現代の世界で同時並行的に起こっている政治現象に対しては、タコツボ化した学界の現状に風穴を開け、多くの人々が不安を感じている現象の本質をわかりやすく分析することもまた、政治学者にとっての重要な使命と言えるのである。
 この点で著者は、正真正銘の政治学者である。著者は専門の研究によりつつ、民主主義とポピュリズムの複雑な関係を丁寧に分析している。ポピュリズムは人民主権や多数決制を擁護する点では民主主義の発展を促すように見えながら、代表制で選ばれる既成政党を批判し、カリスマ的なリーダーを待望する点で民主主義の発展を阻害する面も併せ持っている。
 本書は日本の例として橋下徹に言及しているが、私はむしろ大正デモクラシーの中から出てきた昭和の超国家主義を思い出した。同時期にドイツでも、ワイマール憲法が定めた民主主義の中からナチズムが台頭してくる。こうした全体主義とポピュリズムの関係についても、著者の見方を知りたいと思った。
 評・原武史(放送大学教授・政治思想史)
     *
 『ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か』 水島治郎〈著〉 中公新書 886円
     *
 みずしま・じろう 67年生まれ。千葉大学教授(オランダ政治史、比較政治)。『戦後オランダの政治構造』など。


Wikipedia
ポピュリズム(: populism)とは、一般大衆の利益や権利、願望、不安や恐れを利用して、大衆の支持のもとに既存のリート主義である体制側や知識人などと対決しようとする政治思想、または政治姿勢のことである[1][2][3][4]。日本語では大衆主義や人民主義[5]などのほか、否定的な意味を込めて衆愚政治や大衆迎合主義[6][7]などとも訳されている。
また、同様の思想を持つ人物や集団をポピュリスト(: populist)と呼び、民衆派や大衆主義者、人民主義者、もしくは大衆迎合主義者などと訳されている。
歴史[編集]
「ポピュリズム」の用語は「ラテン語: populus(民衆)」に由来し、通常は「エリート主義」との対比で使用される[8][9]
古代ローマでは「populus」は「ローマ市民権を持つ者」の意味であったが、ポピュリスト達は「民衆派(大衆派)」とも呼ばれる事実上の党派となり、ティベリウス・グラックスガイウス・マリウスガイウス・ユリウス・カエサルアウグストゥスなどは、元老院を回避するために民衆に直接訴えて市民集会で投票を呼びかけた[10]
19世紀にヨーロッパで発生したロマン主義は、従来の知識人中心の合理主義や知性主義に対抗し、大衆にナショナリズムやポピュリズムの影響を与えた。1850年から1880年のロシア帝国では、知識人(知的エリート)に対立する運動として現れた[11]
1860年代のロシアのナロードニキ(人民党、大衆党)は、小作農を主体とした革命を提唱した。
19世紀末のアメリカ合衆国では、人民党(通称ポピュリズム党)が既成の支配層である鉄道や銀行を攻撃し、政治思想としての「ポピュリズム」が広く知られるようになった。以後もアメリカでは、マッカーシズムや、2000年代のティーパーティー運動などがポピュリズムと呼ばれた。
1930年代のイタリアファシズム運動[12][13][14]ドイツナチズム[15]アルゼンチンフアン・ペロン政権[16]などは、既存のエリート層である大企業・外国資本・社会主義者・知識人などに強く反対し、大衆に対して雇用や労働条件向上を実現する変革を直接訴えたため、ポピュリズムと呼ばれる場合が多い。
概念[編集]
ここ数世紀の学術的定義は大きく揺れ動いており、「人民」、デマゴーギー、「超党派的政策」へアピールする政策、もしくは新しいタイプの政党へのレッテルなど、しばしば広く一貫性の無い考えや政策に使われた。英米の政治家はしばしばポピュリズムを政敵を非難する言葉として使い、この様な使い方ではポピュリズムを単に民衆の為の立場の考えではなく人気取りの為の迎合的考えと見ている。[17]にも関わらず近年新たに学者によってポピュリストの見分け方や比較分類の為の定義がまた作られている。Daniele AlbertazziDuncan McDonnellはポピュリズムの定義を「均一的(人種・宗教などが共通の)良民を、エリート層と危険な『違う人々』を両者共に主権者たる人々から権利、価値観、繫栄、アイデンティティー、発言力を奪う(もしくは奪おうとする)ものと説き、民衆と対決させる」理念としている。[18]
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/3/3e/Nolan-chart.svg/330px-Nolan-chart.svg.png
ノーラン・チャートによる定義では、ポピュリズム(および全体主義)は左下に位置する。
近年では、「複雑な政治的争点を単純化して、いたずらに民衆の人気取りに終始し、真の政治的解決を回避するもの」として、ポピュリズムを「大衆迎合(主義)」と訳したり、「衆愚政治」の意味で使用する例が増加している[19]村上弘によれば、個人的な人気を備えた政治家が政党組織などを経ずに直接大衆に訴えかけることや、単純化しすぎるスローガンを掲げることを指すとする。[20]
民主主義は民意を基礎とするものの、民衆全体の利益を安易に想定することは少数者への抑圧などにつながる危険性もあるという意味では、衆愚政治に転じる危険性は存在する[4]が、それは民主主義の本質であって、ポピュリズムそのものの問題ではない[21]。民主制は人民主権を前提とするが、間接民主制を含めた既存の制度や支配層が、十分に機能していない場合や、直面する危機に対応できない場合、腐敗や不正などで信用できないと大衆が考えた場合には、ポピュリズムへの直接支持が拡大しうる。その際にはポピュリストが大衆に直接訴える民会出版マスコミなどのメディアの存在が重要となる。
ノーラン・チャートによる定義では、個人的自由の拡大および経済的自由の拡大のどちらについても慎重ないし消極的な立場を採る政治理念をポピュリズムと位置づけ、権威主義全体主義と同義としており、個人的自由の拡大および経済的自由の拡大のどちらについても積極的な立場を採るリバタリアニズム(自由至上主義)とは対極の概念としている[22]
脚注[編集]
1.   ^populism (The Free Dictionary)”. The American Heritage. 2012718日閲覧。
4.   ^ a b 今村仁司、三島憲一、川崎修「岩波社会思想事典」 岩波書店2008年、p298-299
5.   ^ 蒲島郁夫竹中佳彦「現代日本人のイデオロギー」p402、東京大学出版会
6.   ^ 小学館「デジタル大辞泉」
7.   ^ 三省堂「大辞林 第三版」
8.   ^ Populist Mobilization: A New Theoretical Approach to Populism, Robert S. Jansen, Sociological Theory, Volume 29, Issue 2, pages 75–96, June 2011
10.    ^ Julius Caesar (William Shakespeare, Marvin Spevack) 2004, p70
11.    ^ Larousse, Le Petit Robert, des noms propres, 1997, <populisme> の項
12.    ^ Ferkiss, Victor C. 1957. "Populist Influences on American Fascism." Western Political Quarterly 10(2):350–73.
13.    ^ Dobratz and Shanks–Meile 1988
14.    ^ Berlet and Lyons, 2000
15.    ^ Fritzsche, Peter. 1990. Rehearsals for Fascism: Populism and Political Mobilization in Weimar Germany. New York: Oxford University Press. ISBN 0-19-505780-5: 149–150.
17.    ^ The Irish Times. O'Halloran, Marie. http://www.irishtimes.com/news/ff-education-bill-a-populist-stunt-says-government-1.963336 January 21, 2013
18.    ^Twenty-First Century Populism”. Palgrave MacMillan. p. 3. 2008年閲覧。...
19.    ^ 「ポピュリズム」を「大衆迎合」や「衆愚政治」などの意味で使用した書籍の例には以下がある。「日本型ポピュリズム:政治への期待と幻滅」(大嶽秀夫、中央公論新社、2003年)。「ポピュリズム批判:直近15年全コラム」(渡邊恒雄、博文館新社、1999年)書籍の帯は「大衆迎合は国を滅ぼす。新世紀を斬る。」博文館新社の経済・社会。「自治体ポピュリズムを問う:大阪維新改革・河村流減税の投げかけるもの」(榊原秀訓、自治体研究社、2012年)
21.    ^ 吉田徹『ポピュリズムを考える』NHKブックス、2011
22.    ^ Christie, Stuart, Albert Meltzer. The Floodgates of Anarchy. London: Kahn & Averill, 1970. ISBN 978-0900707032




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