世界を変える「デザイン」の誕生  Barry M. Katz  2017.6.9.

2017.6.9.  世界を変える「デザイン」の誕生 シリコンバレーと工業デザインの歴史
Make It New The History of Silicon Valley Design         2015

著者 Barry M. Katz カナダのマギル大、英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで学び、UCSantaCruzで博士号。専門は工業デザイン。現在はカリフォルニア美術大工業デザイン科教授、スタンフォード大d.school教授、東大i.school特別研究員(フェロー)として未来のデザイナーを育成。工業デザイン・コンサルタントとしてシリコンバレーの著名なデザインコンサルティング会社IDEOに所属し、世界中の大企業や政府など数多くのクライアントを持つ

訳者 高増春代 埼玉県生まれ。日本女子大大学院文学研究科英米文学専攻博士課程前期修了。大手電機メーカーで社内翻訳を担当後、フリーランスとなり、スポーツ記事の翻訳のほか、エンターテインメント関連の書籍英訳も手掛ける。茨城県在住

発行日           2017.2.13. 初版発行
発行所           CCCメディアハウス

シリコンバレーは、様々な組織や出来事が独特に融合して生まれた特殊な場所。
他の時代や場所で再現できるものではない。そこで重要な役割を果たしてきたにもかかわらず、見落とされてきた要素が1つだけある。それが「デザイン」だ


はじめに
テーマ1. イノベーションを信条とするシリコンバレーでのエコシステムを完成させるうえで、デザインがいかに重要な「最後のサービス」であったか
テーマ2. シリコンバレーにおけるデザイナーたちの起源を振り返り、その成長の軌跡を辿る
テーマ3. デザイナーたちの立場の劇的な変化を辿る

第1章        喜びの渓谷
1951年、ヒューレット・パッカードに工業デザインの学位を持つカール・クレメントがエンジニア(製図技師)として就職 ⇒ 初の工業デザイナー誕生
当時のHPは、パロアルトに本拠を置く従業員250名程度の中規模計測器メーカー
59年には、HPの製品は373機種に拡大、機能性は維持したまま製造時間、在庫スペース、運送コストが大幅に縮小され、統一感あるパッケージによりHPのブランドイメージが確立
統合型「システム1」キャビネットは、61年の工業デザイン優秀賞を受賞し、デザイナーに注目が集まる
70年、HP4年前に開発した9100シリーズ卓上関数電卓の後継新製品を手の平サイズに小型化する計画を開始、72年にHP-35として市場を席捲、HPの総利益の41%を占めるまでになり、技術機器という工業製品と一般消費財との区別が曖昧となる未知の領域まで、販売範囲を拡大することになる ⇒ エンジニアや専門家の枠を超えて広く一般大衆に受け入れられた最初の専門技術製品隣。シリコンバレーにもデザインという仕事自体にも大きな衝撃を与える
製品開発史上初めて、デザイナーが最初から開発チームに加えられた ⇒ リルジェンウォールが総合デザインを任される
製品の条件は、「フル充電で4時間の使用が可能、シャツのポケットに入る関数電卓、価格が研究所も個人も納得できる範囲」というもの
キーパッドの開発に際しては、ヒューマン・ファクターの分析を論理的に行う
一般的に研究開発志向のテクノロジー企業にとって、「消費者ビジネスの魅力」は大変な鬼門で、インテルのデジタル時計事業が惨憺たる結果に終わったのが良い例 ⇒ 技術的な問題をクリアすると、宝石ビジネスへと変わり、事業は失敗に終わる

第2章        研究と開発
1960年代半ば、「人間工学」の時代開幕 ⇒ 人が働く仕事環境に関する研究
ミシガン州では、ハーマンミラーが独立して家具産業を超えてより広い視点での問題解決を探る
ゼロックスは、メンロパークに「未来のオフィス」創造のための研究施設を開設
スタンフォード研究所では、エンゲルバートがオーギュメンテーション研究所を創設
70年代前半、個人向けで持ち運び可能なコンピューターというコンセプトが契機 ⇒ デザインがコンピューターという概念を形にするうえで重要な役割を果たすたが、逆にコンピューターもデザインという概念を形にするうえで大きな貢献をした
シリコンバレーにおけるイノベーションの原動力として人間科学の分野が注目されるようになったのは90年代の終わり

第3章        大転換 シー・チェンジ
79年、ピーター・ロウがパロアルトに非営利組織のデザインセンター開設
69年、エスリンガー・デザイン創業 ⇒ ルイ・ヴィトンやテキサス・インスツルメンツ、ソニーなどと契約
モグリッジのIDTwo、マイク・ヌタルのカトリックス・デザイン、デイヴィッド・ケリー・デザインが合併してできたIDEOは、ヨーロッパのデザインとアメリカのエンジニアリングとが調和したデザイン会社

第4章        デザインの系統
第5章        デザイナーをデザインする
創設する者 ⇒ スタンフォード大学
建設する者

第6章        来るべき世界の物語
デザイナー協定 ⇒ 知識と経験を共有するプラットフォームを提供
その根底にあるのは、デザイナーには世界を変える力があるという前提

結論
シリコンバレーのデザイン文化において最も広範囲に広がった製品はデザイン思考で、デザイナーの考えるアイディアを生活全般に応用することはシリコンバレーのエコシステムにしっかりと根差し、この地球上に瞬く間に広がった



2017.4.9. 朝日
(書評)『世界を変える「デザイン」の誕生』 バリー・M・カッツ〈著〉
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 ぼくの妻は機械音痴だが、はじめてマッキントッシュを触ったとき、もっと早くこのパソコンを使いたかったと言った。そう、マックはユーザーに心地よさをもたらすのだ。このような製品が、どういう経緯で実現するに至ったのか。本書はシリコンバレーで起こった「デザイン革命」の過程をつぶさに再現する。
 シリコンバレーといえども、1950年代にはデザイナーの地位は低く、エンジニアから蔑(さげす)まれる存在ですらあった。そこから彼らの、長く粘り強い戦いが始まる。何が必要なのかを自分で考え、新しい領域、新しい戦線、新しい方法論を切り拓(ひら)いていく。流行(はや)っているからやるのではない。
 周囲のコミュニティも開放的で流動的だ。失敗や倒産といった衝撃をむしろ好機ととらえ、デザイナーたちは次の職場へと移り、新たな考えが広がっていく。
 そのダイナミズムの蓄積が、マッキントッシュに結実している。シリコンバレーは一日にして成らず。
 佐倉統(東京大学教授)
     *
 『世界を変える「デザイン」の誕生 シリコンバレーと工業デザインの歴史』 バリー・M・カッツ〈著〉 高増春代訳 CCCメディアハウス 2808円


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