モータリゼーションの世紀  鈴木直次  2017.2.6.

2017.2.6.  モータリゼーションの世紀 T型フォードから電気自動車へ

著者 鈴木直次 1947年生まれ。70年上智大経済卒、76年東大大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。専修大経済学部専任講師、助教授を経て、同教授。博士(経済学)。専攻はアメリカおよび国際経済

発行日           2016.11.17. 第1刷発行
発行所           岩波書店(現代岩波全書)

出版社内容情報
米ビッグスリーを軸に自動車産業の栄枯盛衰の歴史を辿り、これからの自動車社会を展望する。

著者からのメッセージ
20世紀はクルマに乗って走り出した」と言われたように、自動車は私たちの経済社会を大きく変えた。ビッグスリーを中心に花開いた自動車文明を再検討しながら、大転換の渦中にある自動車産業の次の1世紀を考えるヒントを探そう

ヘンリー・フォードがT型フォードを発売し、車が世界に広く普及してから1世紀。モータリゼーションは人々の暮らし方から、産業・経済構造までも大きく変え、環境に負荷をかけながらも、今や多くの発展途上国においても進んでいる。このモータリゼーションを主導してきたビッグスリーを軸に、欧州・日本・新興国をも視野に入れて自動車産業の栄枯盛衰の歴史を辿り、電気自動車、自動運転等々、一大技術革新期を迎えた自動車文明のこれからを展望する

プロローグ激変する世界の自動車産業
自動車産業は、100年に一度と言われる技術革新が進行中
    ガソリン・エンジンに代わる多様な原動機を載せた「次世代自動車」が登場 ⇒ 環境問題が契機
    自動運転車の開発 ⇒ 事故と渋滞の解決
世界の自動車市場と生産の立地に変化 ⇒ 新興国市場の急成長
巨大自動車企業の消長 ⇒ 90年代初頭、米ビッグスリーの凋落顕著
本書の狙い ⇒ 自動車産業の最初の1世紀を振り返り、これをリードしたビッグスリーの盛衰ならびにそれに伴って繰り広げられた世界的な企業興亡のドラマを、できるだけコンパクトに描くことにある。それはまた、技術革新と世界的な競争激化というこの激動の時代を経て、次の1世紀に自動車とヒトとの関わり合い、つまり自動車文明はどのように変わり、世界の有力企業間の序列と相互関係にはどのような変化が起きるのかを考える素材になる
3つの時期に区分
第1       最初の2章 ⇒ 産業の誕生以降およそ三四半世紀にわたるビッグスリー優位の時代を対象とし、ビッグスリーの成功とその経営戦略を多面的に検討
第2       次の2章 ⇒ ビッグスリーにとって逆風の時代で、自動車の「社会的費用」の増大に人々の注目が集まると同時に、日欧企業の進出がビッグスリーの優位を脅かす
第3       最後の第5章 ⇒ GMとクライスラーの連邦破産法適用とその復活

第1章     アメリカ自動車産業の誕生と成長
1770年頃、フランスで蒸気機関を用いて開発された大砲牽引用の三輪車が世界「最初の自力走行路上車」
1820年代後半~30年代初頭、イギリスで大型の蒸気バス開発
19世紀前半、英米で電気自動車開発 ⇒ 本格化するのは世紀後半のフランス
1860年、フランスで内燃機関を用いたガソリン車登場
アメリカでも、ほぼヨーロッパと時を同じくして、同様の車の開発が行われていた
アメリカで自動車の商業生産が始まったのは、ヨーロッパよりやや遅れて1890年代だったが、個人用乗り物への膨大な潜在需要に支えられて急成長を遂げる
1897年、オールズがミシガン州で自動車製造を開始 ⇒ 世界初の自動車専用工場で、「カーブド・ダッシュ」と呼ばれた安価な小型車をつくる
デトロイトが自動車産業の集積地として発展
フォードが、最新技術で「基本的な輸送手段」としてT型車を開発。価格は平均年収並みで、他の自動車の半値以下。1913年にはベルトコンベヤーを導入した大量生産の仕組みをつくり、細分化され標準化された労務管理法を確立 ⇒ ライバルの出現と乗り心地やスタイルを求めた大衆の趣向の変化に追いつけなかったフォードは20年代後半には衰退
代わって登場したのがビュイックをもとに08年登場したデュラント率いるGMで、次の社長のスローンの時代にモデルチェンジによる「計画的陳腐化」政策で大成功を収める
大恐慌時に失墜したGMとフォードに代わって躍進したのがGMの技術者から独立したクライスラーで、ダッジを買収、プリムスで大ヒットし、シェアを急伸させた
大恐慌とニューディールが労働者の組織化を後押しし、団結権と団体交渉権を認められた労働者が労働集約的な自動車産業のネックとなって立ちはだかる

第2章     アメリカ自動車産業の「黄金時代」――その光と影
2次大戦後~第1次石油ショックまでの四半世紀に、アメリカの自動車産業は急拡大
ビッグスリーの生産体制が整い市場を独占
高い生産能力が自動車産業の黄金時代を築く ⇒ ハードのオートメーションによる機械設備の革新が背景にある

第3章     「黄金時代」の揺らぎと「日米逆転」
60年代後半には、事故や大気汚染等の「自動車の社会的費用」が増大するが、企業は無関心で、連邦政府の本格的な規制を招く ⇒ 69年「欠陥車コルベア」を弾劾したネーダーの登場が「コルベアの悲劇」を生み、安全対策規制が強化
大気汚染問題 ⇒ 59年カリフォルニア州で汚染物質の排出基準を制定、66年世界初の排ガス規制を実施。連邦政府も70年に環境保護庁EPAを新設し取り組み開始、同年マスキー法を制定したが、ビッグスリーの圧力によって実施は20年も先延ばしされた
燃費規制が小型化への動きを促し、輸入車のシェアが拡大 ⇒ 79年の第2次石油危機がビッグスリーの凋落と「日米逆転」を生む。深刻な不況とインフレから自動車価格が急騰、ローン金利も上昇して販売と生産が急減、ビッグスリーが深刻な経営難に陥る
79年、連邦政府によるクライスラー救済 ⇒ 民主党支持のUAWとの長年の関係からカーター政権が決断、70年のペンセントラル、71年のロッキード救済にも用いられる民間企業救済の常套手段となった
大量失業に直面したUAWは矛先を日本に向け、対米投資さもなくば輸入規制を要求。鉄鋼やテレビと異なり、労組が対日批判の口火を切り、以後も中心的役割を果たす ⇒ 対米投資に消極的な日本企業に対し、輸入規制の動きが加速するも、米国際貿易委員会ITC74年通商法のエスケープ・クローズ適用を認めなかったため、議会に輸入規制法案が提出されたのを見て、日米両国政府が日本の自主規制に向けて動き、渋る日本の業界を説得して80年度から944月まで続く自主規制が始まる
70年代から対米市場浸透が注目され始めた日本車は、燃費以外に品質や生産性でも80年代初頭にはビッグスリーを凌駕

第4章     ビッグスリーの「復活」と米国自動車産業のグローバル化
ビッグスリーの業績回復 ⇒ 80年代前半に急回復、90年代初期に景気後退で一時不振に陥るが、すぐ反転し、好調のまま20世紀を終える
94年には日本の自動車生産が大幅に減少したことも相俟って、日米の生産台数は再び逆転、日本車の現地生産が拡大したこともあって、ビッグスリーの業績は94年以降史上最高を更新し続ける ⇒ 支えたのは米国内の好景気と、円高による日本車の競争力減退、ビッグスリー内部の合理化策の浸透
91年、フォードの「エクスプローラー」に代表される、ジープなどの特殊車両をベースとしたミニバンやSUVなど「小型トラック」のブームが到来、世紀末には乗用車を凌駕
8090年代にアメリカの自動車産業が経験した最も重要な変化の1つはグローバル化。各社とも規模拡大を生き残りのカギとみて、国際的なネットワーク構築に奔走
同時に外資系企業も現地生産を開始 ⇒ Transplant(移植工場)からNew Domestics
25%という高関税に守られた高収益の小型トラック市場参入には現地生産しかなく、ビッグスリーの牙城だった小型トラック市場でもNew Domesticsによる侵食が始まり、経営破綻の契機となった

第5章     GMの経営破綻
0961日、GMによる連邦破産法第11条の適用申請
01年、ITバブル崩壊に伴う10年ぶりのリセッションに9.11が重なり、景気回復のため連邦政府は金融緩和策を講じたことから、大住宅ブーム到来
自動車市場も、90年代後半から歴史的なブームで、9908年低利で放漫な自動車ローン(自動車版サブプライムローン)と積極的な販売奨励策を背景に販売台数がピークに
05年、北米事業の赤字転落 ⇒ 石油価格高騰、格付が投資不適格へ引き下げ、分離独立した部品会社デルファイの破綻の煽りで一部債務引き受けに伴い赤字幅増大
大規模なリストラ策をとったが、06年末には57億ドルの債務超過に陥り、07年には住宅バブル崩壊によるサブプライムローンの焦げ付きが金融子会社GMACを直撃。08年には資金繰りが窮迫、格付はBまで落とされ、創業100年祭の直後に起きたリーマン・ショックの煽りで破綻は確実になる
自動車産業界の危機的な状況の中、07年にはビッグスリーとUAWが歴史的な労働協約改定に踏み切る ⇒ 従業員の福利厚生基金を分離独立させ、毎年の退職者医療給付負担を回避する代わりに一時的に巨額の資金を支出。UAWも会社が破綻しても退職者への医療給付を確保する一方、経営側に譲歩して低賃金労働の雇用を狙った二層賃金制度導入を認める(15年に撤廃)
08年の大統領選、連邦議会議員選挙で伝統的にUAWと緊密な関係があり、救済に積極的な民主党が勝利したのを機に救済策が具体化するも、UAWの賃金が退職者への医療給付や年金などのレガシーコストで高止まりしていることがネックとなって議会が救済法案を拒否。最後は金融安定化法を活用し、ブッシュ、オバマ両政府から800億ドルに上る政府支援を引き出すも、債権者の支援合意が得られずに破綻
3月末時点の総資産823億ドル、負債総額1,728億ドルで、製造業としては過去最大

エピローグー ―― 21世紀のビッグスリーとアメリカの自動車文明の行方
10年には、GM、フォードとも99年以来最大の利益を上げるまでに急回復。15年にはGMが史上最高益を更新 ⇒ 米国市場の活性化、特に石油価格低下により高収益の小型トラックの人気が再燃するとともに、経営刷新の努力が結実したことが大きく貢献
l GMは、10年には再上場を果たし、13年には政府持ち株を買い戻す ⇒ 株価が上がらずに政府は100億ドル余りの損失を出し、救済の評価に関する議論を再燃させた
再建後は初の生え抜き女性社長が誕生
l クライスラーはフィアットとの提携により新会社を設立して再出発。11年には政府支援109億ドルを完済。政府は96億ドルを回収。14年にはフィアットの完全子会社に
l 政府支援を受けなかったフォードも09年には黒字を回復、経営効率化のために限られた資源を製品開発と生産設備に集中する一方、生産の合理化と企業文化の見直しに成功
l トヨタの効率的な開発・生産方式は「リーン生産方式」と呼ばれ、フォードの大量生産システムに続く自動車産業のイノベーションと評価され、世界の最先端に位置付けられた
14年には北米事業の本社をダラス郊外に一元化し持続的成長を目指すという計画を発表、17年初頭からの稼働を目指す
l VWは、93年に社長となった創業家の血を引く「天才的エンジニア」ピエヒの積極的な拡張策により、多くの欧州企業を買収、伝統的に新興国市場に積極的だったこともあって大躍進を遂げ、世界トップも見えてきた矢先、15年にアメリカ市場でディーゼルの排出するNOxの測定での不正が露見、200億ドル以上の損失を計上して赤字に転落
l 現代自動車も急拡大に伴う歪みに悩まされる ⇒ 86年に円高による日本車の価格上昇の間隙を縫って登場した低廉小型車で最初の成功を収めるが、低品質が祟って落ち込み、その後品質を改善してブランド構築に邁進するが、13年には燃費誇大表示で制裁金を払う
自動車産業と自動車文明の行方
   環境規制の強化 ⇒ 連邦政府が燃費の50%以上の改善を要求する新基準を発表。電気自動車の開発を加速させる
   自動運転車の登場 ⇒ 各国政府が技術革新と経済成長のカギになるとみて支援策をとり、普及のための法整備に着手
   車の利用に関するシェアリングサービスの拡大 ⇒ ミレニアム世代の物品の購入・所有離れの典型がクルマ
自動車会社は、「クルマを作る会社から移動や輸送に関するあらゆるサービスを提供する会社」への転身を目指す



モータリゼーションの世紀 鈴木直次著 米ビッグスリーの興亡描く
2017/2/5付 日本経済新聞
 保護主義に傾くトランプ政権の登場で、かつての日米自動車摩擦の再燃を思わせる、きなくさい雰囲気が日米間に漂い始めた。なぜモータリゼーションの母国である米国の自動車産業が弱くなり、摩擦を呼び込むほどに日本車をはじめとする外国車が伸びたのか。以前の摩擦は日本や米国の自動車会社にどんな影響を及ぼしたのか。そんな疑問を抱く読者は本書をひもとくことで過去から今へとつながる事態の進展が明瞭に理解できるだろう。
 本書が扱うのは自動車の誕生した19世紀末から、2009年の米ゼネラル・モーターズ(GM)の破綻までの100年強の時代だ。GMをはじめとする米ビッグスリーの躍進と後退の歴史を、各種データや引用をふんだんに織り込みつつ、分かりやすくまとめた。学者らしい淡々とした記述の中からも、手に汗握るような巨大企業の興亡のドラマが浮かび上がってくるのが本書の最大の魅力だろう。
 労働組合とのせめぎ合いや安全・環境をめぐる政府とのやりとりなど企業を取り巻くステークホルダーとの関係にも目配りした。欲をいえば、本書のクライマックスであるGM破綻について「何が(誰が)悪くてこうなったのか」「避ける術(すべ)はなかったのか」といった価値判断にもう少し踏み込んでほしかった気もする。(岩波書店・2300円)


紀伊国屋書店
内容説明
ヘンリー・フォードが一九〇八年T型フォードを発売し、クルマが社会に広く普及してから一世紀。モータリゼーションは人びとの暮らし方から、産業・経済構造までも大きく変え、環境に負荷をかけながらも、いまや多くの発展途上国においても進んでいる。このモータリゼーションを主導してきたビッグスリー(GM、フォード、クライスラー)を軸に、欧州、日本、新興国をも視野に入れて自動車産業の栄枯盛衰の歴史を辿り、電気自動車、自動運転等々、一大技術革新期を迎えた自動車文明のこれからを展望する。


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