ドキュメント 銀行  前田裕之  2016.3.30.

2016.3.30. ドキュメント 銀行 金融再編の20年史――19952015

著者 前田裕之 日本経済新聞社編集委員。1986年東大経卒。日本経済新聞社に記者職で入社。東京、大阪で金融機関経営、金融行政、金融政策、年金・雇用・労働問題などを担当。12年から編集局経済解説部編集委員

発行日           2015.12.30. 第1
発行所           Discover 21


「銀行業とは何か」、「銀行は安全なのか」という疑問に答え、これから銀行とどう付き合うべきかを考えるヒントを提供するのが本書の狙い
日本の大手銀行がバブル崩壊後にどの様な運命を辿り、5大金融グループがどんな経緯で誕生したのか、その時代を象徴する経営者らが傾いた銀行の再生に奮闘する姿を描き出す
また、銀行の「新陳代謝」をテーマに、地方銀行、第2地銀と、インターネット銀行などの新設銀行を取り上げる
最後に、銀行業の本質を、経済理論を紐解きながら解説し、銀行はどうあるべきか問題を提起する

第1章        金融危機の「入口」と「出口」
20年前の事件に戻るのは、日本の銀行が抱えていると指摘された様々な問題がいまだに解決されているとは言えないから
95年 大和銀行ニューヨーク支店での巨額損失事件の発端となる書簡を担当者が頭取に送付  12年間不正を見抜けなかった管理体制の不備と、首脳陣の初期動作とその後の対応のまずさが、銀行の信用失墜に輪をかけた
当時の銀行局長は西村吉正、課長は村木利雄で、公表の先送りを示唆  直前にコスモ信組が経営破綻、木津信と兵庫銀の破綻発表を控えていた
損失1100億円+司法取引による罰金360億円
84年にも子会社ダイワトラストを舞台に米国債の簿外取引で97億円の損失を出しながら組織ぐるみで隠蔽、94年に穴埋めしていた事件が、今回の事件で公表を迫られ、頭取が引責辞任、併せて米国からの撤退を命じられた
事後処理にあたったのは常務の國定浩一(東大法卒、事件後98年大和銀総研社長)
関西地銀の受け皿に徹し、巨額の株主代表訴訟回避のために持株会社化したところへ、01年経営危機に瀕したあさひが経営統合を要請、03年りそな誕生するが、税効果会計の圧縮により自己資本比率が基準を下回ったため、公的資金導入に踏み切る
りそなの経営を託されたのが細谷英二。68年旧国鉄入社、財務担当、分割派のため左遷、JR東日本副社長から転出するタイミングでの就任。12年会長。同年死去(享年67)
15年 公的資金完済

第2章        消滅した長信銀
99年 興銀、富士、第一勧銀が経営統合発表  不良債権の負担が最も大きい弱者連合。お互いが手の内を見せまいとして牽制し合い、不良債権の開示と処理を怠る
02年 みずほ銀行発足時に発生したシステムトラブルは、3行による主導権争いの弊害
97年のアジア通貨危機を契機に、北拓と山一が経営破綻、公的資金が一斉に投入されたが、98年には長銀も国有化され、日銀の安斎が「お葬式」に乗り込み、2年後外資に売却
96年 経営難が噂された日債銀は、日銀から東郷をスカウト、系列ノンバンクの不良債権処理を急いだが、長銀破綻を受け日債銀も前年の検査結果を覆されて債務超過に陥落、98年末特別公的管理(一時国有化)が通告された。経営責任として東郷は粉飾決算を理由に刑事告訴されたが、11年逆転無罪に(08年には長銀も逆転無罪)
日本の銀行界は、9204年に約100兆円の不良債権の損失処理を計上、公的資金投入が約13兆円、国の資金援助は約19兆円

第3章        メガバンクは変身したか
UFJ争奪戦の真相  02年竹中金融担当相の打ち出した「金融再生プログラム」によって不良債権比率の半減を求められた大手銀行は追い詰められて資本調達に走るなか、UFJのみが不良債権の一部を子会社に移しただけで処理が出遅れ。03年秋に続いて翌年1月にも金融庁検査が入り、不良債権が1兆円以上の追加査定となり、貸倒引当金が7000億円不足。一旦は黒字決算を発表したが赤字転落は必至となり、信託売却を決断、4000億円の赤字発表と同時に頭取は辞任。信託の売却益と増資で黒字化を目論んだが、厳しい査定で9月中間期も赤字が予想され、さらに6月には資料隠し等の検査対応、2期連続の業績不振、中小企業向け融資の水増し申告、業績修正と本決算の大幅乖離の4項目に対し業務改善命令が発動され、他のメガバンクとの統合しか選択肢はなくなる
検査忌避により刑事処分の可能性もあって公的増資に行き詰まる
統合の対象は、最初念頭にあったのは住友だが、業務改善計画提出の期限もあって、早くから秋波を送っていた三菱との交渉が始まる。住友信託との信託売却話を覆し、05年統合合意、比率は1:0.62
住友信託は1000億円の損害賠償を請求、25億円で和解
銀行経営を革新する近道として合併が有力な選択肢
三井住友の場合、90年に太陽神戸三井として発足したがバブル崩壊の煽りで質の転換に踏み切れないまま、99年のみずほ誕生に刺激された住友との話が進む
住友には、自らの資本だけでは成し遂げられない場合、小さな自尊心にはとらわれずに日本中の大資本家と合同してやり遂げる気迫を蓄えていかねばならないという社是があった
99年統合発表

第4章        進まぬ新陳代謝

第5章        銀行に未来はあるか
大森泰人(9901年近畿財務局理財部長)



ドキュメント銀行 前田裕之著 金融再編の20年を丹念に検証
2016/2/7付 情報元
日本経済新聞 朝刊
フォームの終わり
 バブル崩壊前に20を超す大手銀行が乱立した日本の金融はいまや3つのメガバンクなど5大グループに集約された。再編の過程で銀行はどんな運命に直面し、経営者はなにを考えたのか。この20年間に光を当て、銀行業の移り変わりを丹念に検証した。
http://www.nikkei.com/content/pic/tc/NDSKDBDGKKZO9701783006022016MY7000~5CDM1~5C~5CDSKKZO9701784006022016MY7000-PN1-1-1-00.jpg~5CJPEG~5C20160207~5CJPEG~5C755017ee-ATCSF13.jpg
 1995年の大和銀行ニューヨーク支店での巨額損失事件を金融危機の一つの端緒と位置づけた。2003年、実質国有化された後継のりそな銀行への公的資金注入で日本の株価低迷は反転する。関西系下位行の大和銀が危機の入り口と出口を演じる奇縁を人間模様をからめて描いた。
 統合や破綻で消滅した日本興業銀行など長期信用銀行の宿命、再編の目玉となったUFJ銀行を巡るメガバンクの争奪戦を詳述した。関西勢を中心にした地方銀行の再編や異業種から参入した銀行の抱える課題にも触れた。
 著者が携わった東京と大阪での金融取材に経営者の回顧録や各種の公開情報を交えて客観的な読み物に仕上げた。銀行業とは何かという基本の解説も随所に加えた。
 過去と現在を橋渡ししながら「苦境が繰り返される可能性は十分にある」と説く。20年を経てもオーバーバンキングなどの構造問題を解決できない金融界に対する静かながらも痛烈な批判である。(ディスカヴァー・トゥエンティワン・2400円)



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