会計不正はこう見抜け  Howard Schilit  2015.7.1.

2015.7.1.  会計不正はこう見抜け
Financial Shenanigans ~ How to Detect Accounting Gimmicks & Fraud in Financial Reports, 3rd Edition   2010

著者 
Howard Schilit 公認会計士。Ph.D1994年企業の財務報告の不正について投資家に警告を与える調査機関「財務調査・分析センターThe Center for Financial Research and Analysis」を設立。11年シリット・フォレンジックス(顧客向けに会計不正の分析レポートを出す会社)設立。17年間アメリカン大学で会計学を教える
Jeremy Perler 証券アナリスト。公認会計士。ミシガン大ロス・スクール・オブ・ビジネスで会計学修士と経営学士号取得。プライスウォーターハウスのニューヨーク事務所勤務を経て、シリット・フォレンジックスのマネージングディレクター

訳者 熊倉恵子 1970寝ぬまれ。93年早大卒後、朝日新和監査法人(現あずさ)入所。96年公認会計士第3次試験合格。08年独立。プロビティコンサルティングのコンサルタント

発行日           2015.3.24. 第1版第1刷発行
発行所         日経BP

はじめに
投資家を喜ばせる必要性には終わりがないので、経営者が会計トリックを使ってポジティブを誇張する誘惑は常に存在する
93年の初版では、7つの利益操作のトリックを紹介
02年の第2版では、新しいテクニックを特定するとともに、90年代で最悪の違反者を例示
今回の第3版では、企業が投資家を誤認させるために使用する多くの新しいテクニックを特定
我々の普遍的なメッセージは、ポジティブを誇張し、ネガティブを隠そうとする欲求は決してなくならないと、投資家は肝に銘ずべきということ。誘惑のあるところに、トリックがしばしばついて来る

第1部        基礎を固める
第1章        最悪の事態
1. 最も想像力に富んだ収益のでっち上げの例 ⇒ エンロン
9500年の僅か5年で10倍に伸びた売上に疑問を持つべきだった
売上増加に比して低い収益の伸びも疑問の種
01.10. 社内監査委員会と監査法人による簿外負債の指摘で過年度利益を修正した結果、株主資本が大幅に減少すると発表し、株価が崩落、その2か月後に倒産
CEOのケネス・レイ始め経営トップは、事前に株を売り抜け。証券詐欺罪など19件で有罪、24年以上の禁固刑となったが、レイはその2か月後病死

2. 最も図々しい架空利益とキャッシュフローの創造の例 ⇒ ワールドコム
83年長距離通信割引LDDSを目的に設立。買収で業績拡大、その最大のものは98年のMCIコミュニケーション。買収費用の即時償却と、同時に設定した引当金の随時出し入れにより利益を操作。99年のスプリント買収が独禁法により許可されなかったため、引当金操作に破綻を来したのを穴埋めするため、他社ラインを使用した際の使用料を費用ではなく資産化し利益を水増し。01ITバブル崩壊で株価が下落、02年初め内部監査チームが不正を指摘、監査法人が監査意見を差し控え、SECが調査を開始、半年後には破産申請
05年ベライゾンがMCIを買収して復活したが、元CEOのエバースは25年の禁固刑
営業キャッシュフローから資本的支出を差し引いたフリー・キャッシュフローが00年には60億ドルも悪化していたことに気付くべきだった

3. 最も恥知らずな上級経営者による強奪の例 ⇒ タイコ
9902年の間に700以上の会社を290億ドルで買収、のれん代の償却を利益操作の源泉とした
代理店とのフィーのやりとりで水増ししたり、役員が会社の金を自分たちの貯金箱のように使っていたりして、実質的に巨額の役員報酬を払っていたことが露見、SECの罰金の他株主代表訴訟でも巨額の賠償金を支払わされ、禁固25年の刑に服した
買収に関わる全てのキャッシュの流出を差し引いた、調整後のフリー・キャッシュフローを把握しておけば、投資家は会社の業績をより明確に把握できただろう

4. 最も情熱的に豊富なトリックを使用した例 ⇒ シンボル・テクノロジーズ
バーコードスキャナーのメーカー。ウォール街を失望させないよう、8年連続で業績を伸ばしたが、その裏では引当金を利益操作に使ったり、架空売上を計上したりして投資家を騙し続けた
証券詐欺罪で起訴されたCEOのラズミロビクはいまだに逃走中

第2章        レントゲン写真の修正
患者が病状の悪化についての情報を受け入れるよりも、恐ろしいニュースに対してすぐにとった反応は、医者にレントゲン写真の修正を頼むことだった
それと同様に、企業は会計テクニックを使って投資家から不都合な真実を隠す
本書では、経営成績と財政状態の問題を覆い隠そうとする会社を特定するのに必要なスキルを読者に提供する
会計トリックを見抜くための全体的アプローチ ⇒ チェック・アンド・バランスのシステムが機能することが最重要

第2部        利益操作のトリック
第3章        利益操作のトリック(その1) 収益の早期計上
投資家が見抜くためのポイント ⇒ ①営業活動によるキャッシュフローが純利益より遅れて計上される、②未収債権の急激な増加、③長期割賦売掛金やリース債権の増加、④販売先が代理店かエンドユーザーか

第4章        利益操作のトリック(その2) 架空収益の計上
4つのテクニック ⇒ ①経済的実体のない取引、②合理的な独立第3者間プロセスのない取引(関連当事者間取引)、③収益が発生しない取引からの現金の受け取りに基づいて収益を計上、④金額の水増し

第5章        利益操作のトリック(その3) 一時的または持続不可能な活動による利益の増大
2つのテクニック ⇒ ①一時的な事象を使った利益の増大、②誤認させる区分による利益の増大(営業利益と営業外利益の操作など)

第6章        利益操作のトリック(その4) 当期の費用を翌期以降に繰り延べる
4つのテクニック ⇒ ①通常の営業費用を不適切に資産計上する、②コストの償却が遅い、③資産を減損した価値で評価減しない、④回収不能債権と回復可能性のない投資を費用化しない

第7章        利益操作のトリック(その5) 費用または損失を隠蔽するその他のテクニック
4つのテクニック ⇒ ①当期の取引の費用を計上しない、②必要な未払計上をしなかったり過去の費用の戻しを計上しない、③アグレッシブな会計見積もりを使って費用を減少させたり計上しなかったり、④過去の費用である架空の引当金を戻し入れて費用を減少させる

第8章        利益操作のトリック(その6) 当期の利益を翌期以降に繰り延べる
4つのテクニック ⇒ ①引当金を作り、それを取り崩して翌期以降の利益にする、②利益平準化のためデリバティブの不適切な会計処理をする、③買収関連の引当金を取り崩して翌期以降の利益にする、④当期の売上を翌期以降に計上

第9章        利益操作のトリック(その7) 将来の費用を前倒しする
2つのテクニック ⇒ ①将来期間の費用を避けるため当期に不適切に資産を償却する、②将来の費用を低減させる目的の引当金を設定するため不適切に費用を計上

第3部        キャッシュフローのトリック
会計原則は、企業の経営成績の報告に発生主義の適用を義務付けており、現金主義とは一線を画す

第10章     キャッシュフローのトリック(その1) 財務キャッシュ・インフローを営業の区分にシフト
3つのテクニック ⇒ ①通常の銀行借り入れから架空の営業キャッシュフローを計上、②回収期限前に売上債権を売却、③売上債権の売却を装う

第11章     キャッシュフローのトリック(その2) 通常の営業キャッシュ・アウトフローを投資の区分にシフト
3つのテクニック ⇒ ①ブーメラン取引で水増し、②通常の営業費用を不適切に資産化、③在庫の購入を投資区分のアウトフローとして計上

第12章     キャッシュフローのトリック(その3) 事業の買収・売却を使った営業キャッシュフローの水増し
3つのテクニック ⇒ ①通常の事業買収で営業キャッシュフローを引き継ぐ、②契約や顧客を自社で開拓せずに外部から購入、③事業売却をクリエイティブな仕組みにして営業キャッシュフローを水増し

第13章     キャッシュフローのトリック(その4) 持続不可能な活動による営業キャッシュフローの増大
4つのテクニック ⇒ ①仕入れ先への支払いを遅らせる、②得意先からの回収を早める、③在庫の仕入れを減らす、④特別利益の悪用

第4部        キー・メトリクスのトリック
経営成績と財政状態を評価にあたって、事実をぼかして投資家をミスリードするためのテクニックを紹介
業績指標のカテゴリーとしては、収益の代替指標として1店舗当たりの売上、受注残、顧客当たりの平均収益等が考えられ、利益の代替指標としてはEBITDA(利息・税金・減価償却前利益)等、キャッシュフローの代替指標としてはフリー・キャッシュフロー等が挙げられる
健全性指標のカテゴリーとしては、債権管理や在庫管理の評価や、資産の減損や引当金の計上状況、さらには流動性やソルベンシー(支払い能力)リスクの評価等が考えられる

第14章     キー・メトリクスのトリック(その1) 経営成績を過大表示する指標の提示
経営成績を過大表示する指標を提示するテクニック ⇒ ①誤認を招く収益の代替の指標を強調、②誤認を招く利益の代替指標を強調、③誤認を招くキャッシュフローの代替指標を強調

第15章     キー・メトリクスのトリック(その2) 財政状態の悪化を隠蔽する貸借対照表の指標の歪曲
歪曲のテクニック ⇒ ①売上の問題を隠蔽するための売上債権の指標の歪曲、②収益性の問題を隠蔽するための在庫指標の歪曲、③減損の問題を隠蔽するための金融資産の指標の歪曲、④流動性の問題を隠蔽するための債務指標の歪曲

第5部        総括
第16章     トリックの復習とアドバイス
   会計トリックを暴く全体的アプローチ ⇒ 財務諸表の精査により利益操作のトリックを見つけ出すことができる
   トリックの背景 ⇒ 上級役員間でのチェック・アンド・バランスの欠如、関連当事者間取引、不適格な監査法人等がトリックを育てる背景にあり
   利益操作のトリック ⇒ 第2部参照
   キャッシュフローのトリック ⇒ 第3部参照
   キー・メトリクスのトリック ⇒ 第4部参照

おわりに
ポジティブを誇張し、ネガティブを隠す衝動は決してなくならない都投資家は想定しておくべき ⇒ 誘惑あるところに、しばしばトリックが後からついて来る



解説 ~ 高度な会計技術論に裏付けられた粉飾決算発見技法
細野祐二 1953年生まれ。早大政経卒。82年公認会計士登録。7804KPMGにて会計監査及びコンサルティング業務に従事。04年キャッツ有価証券報告書虚偽記載事件で逮捕・起訴・上告棄却により懲役2年・執行猶予4年の刑確定。『国際金融取引の実務』で日本公認会計士協会学術賞受賞
圧倒的に豊富な事例の高度解析分析が、粉飾発見技法として結実している





会計不正はこう見抜け H・シリット、J・パーラー著 原則定まらぬ指標の操作を警告
2015.4.12. 日本経済新聞
 本書は1993年に出版された「Financial Shenanigans」(原題)の第3版。版を重ねるごとに紹介される不正会計は精緻かつ大規模になってきた。さらに第3版は米国以外の地域の事例を盛り込んだ点に特徴がある。金融市場のグローバル化に伴い、会計不正からも国境が消えているということなのだろう。
 本書のもうひとつの特徴は、売上高・利益の操作だけでなく、キャッシュフローや、投資家向け広報(IR)などで使われる「キー・メトリクス」という経営指標のごまかしを取り上げたことだ。
 収益やキャッシュフローの不正会計は財務諸表の虚偽記載であり、多くの場合、粉飾決算という犯罪になる。しかし、一般に公正と認められた会計原則(GAAP)が定まっていないキー・メトリクスの誤りは、意図的な不正か、不注意によるものかが判然としない。それを逆手にとって投資家を欺く企業も後を絶たないと本書は警告する。
 ARPU(契約あたり月額平均収入)やEBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)など、企業の財務報告の場で多用される非GAAP指標も、定義や使われ方を精査する必要がある。市場経済に生きる私たち一人ひとりにとって、それは必要なコストであると本書は教える。熊倉恵子訳。(日経BP社・2800円)


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