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旅と草庵の歌人 西行の世界  久保田淳  2015.3.29.

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2015.3.29.  旅と草庵の歌人 西行の世界 著者  久保田淳  1933 年東京生まれ。日比谷高、東大文卒、同大学院、助手、白百合女子大助教授を経て、現在東大教授。文学博士。専攻は中世文学・和歌文学。『新古今歌人の研究』『新古今和歌集全評釈』『西行全集』など著書あり 発行日            1988.11.20.  第 1 刷発行 発行所            日本放送出版協会 この作品は、 NHK 市民大学テキスト『西行の世界』 (1984.7 ~ 9.) を基に書き改めたもの 西行は中世の直前に世を去った王朝歌人。彼は、王朝和歌の心と言葉を吸収しつつ、自らのものとしていった。しかし、保元・平治の乱、源平の動乱を目の当たりにし、深く仏道に思いをひそめた彼の裡をくぐり抜けると、王朝の心と言葉はもはやそのままではありえなかった。ここに中世歌人としての西行が現れることになる 草庵にあって旅を想い、花と月を詠む歌人。その歌と旅の時代を後づけ、新西行像を描く l   旅・花・月の歌人 西行 西行は、芭蕉や良寛とともに、日本の古い詩人の中でも特に人気がある存在。その人気は、作品とともに、その潔い行動、生き方への共感や讃嘆の念に基づくものだろう 芭蕉ほど、作品そのものを冷静に、深く細かいところまで、読み込んではいない 西行は、潔い行動の代償として約 2000 首の歌を得た。彼が歌いたかったものは、訴えたかったものは何であったのか、その機微に迫るためには、我々も執拗でかつ貪欲でなければならないだろう 第1章         鴫立つ沢の秋の夕暮――行脚と草庵 心なき身にもあはれは知られけり 鴫立つ沢の秋の夕暮   ( 新古今和歌集 ) 前が寂蓮法師の、 さびしさはその色としもなかりけり 真木立つ山の秋の夕暮 後ろが定家の、 見わたせば花ももみじもなかりけり 浦の苫屋の秋の夕暮 「 3 夕の歌」と呼ばれ、名歌の誉れ高いもの 古畑のそばに立つ木にゐる鳩の友呼ぶ声のすごき夕暮れ   ( 新古今集 )  のほうが西行の秀歌だとする見方もあるが、本人は前者を自負していたことは確かであり、定家は西行に詠むことを勧められた『二見浦百首』という作品群の中で、西行のこの歌を念頭に詠んでおり、西行