人口の世界史  Masshimo Livi-Bacci  2014.7.16.

2014.7.16. 人口の世界史
A Concise History of World Population, 5th Edition       2012

著者 Masshimo Livi-Bacci 1936年フィレンツェ生まれ。フィレンツェ大学名誉教授。上院議員。リンツェイ学士会員。日本学士院客員。フィレンツェ大卒後、米国ブラウン大に留学、人口統計学者として出発、ローマ大を経て66年以降フィレンツェ大人口学の教授をつとめる。国際人口学研究連合会長(89~93)歴任。ヨーロッパ及び世界の人口史の権威

訳者
速水融(あきら) 1929年生まれ。日本学士院会員。慶應大名誉教授。国際日本文化研究センター名誉教授。慶應大経卒。経済学博士
斎藤修 1946年生まれ。一橋大名誉教授。慶應大経卒。経済学博士、専攻は比較経済史・歴史人口学

発行日           2014.3.13. 発行
発行所           東洋経済新報社

日本の読者に
本書は、四半世紀前にフィレンツェ大政治学部の学生対象の講義に端を発している
人口動向と社会の変容との関係を広い歴史的視野から見ることができるべき
日本とイタリアは類似 ⇒ 寿命は長く伸長、出生率は極めて低く、高齢化が進む。グローバル化高齢化・労働力縮小の最前線では重要な役割を担っており、財政負担の大きい、また多くの対価を払わなければならない社会経済の改革が要求されている国
お互い、それぞれの経験や失敗と成功から多くを学ぶことができる

はしがき
人口増加を決定してきた要因は何だったのか
資源と環境とのむずかしいバランスはどのようにして維持されてきたのか
本書は、これらの本質的な問題を取り上げ、提起されてきた解決法について論じ、未だ検討さるべき事柄として残っているものを吟味すること
人口が時間を通して増加、停滞、縮小する際のメカニズムを追う
人口と資源の間に絶えず見られた不安定な関係を規定してきたメカニズムが、様々な時代や状況下においてどう機能したのか

Q1 人口が今のように72億人なのはなぜか? なぜ7億や720億ではないのか?
Q2 地球にとっての「最適な」人口規模は存在するのか? 収容力は何億人か?
Q3 なぜ人口は時々均衡が破壊されるのか? 成長の時期、停滞・低下の時期が交互にやってくるのはなぜか?
Q4 インディオ絶滅はヨーロッパ人がもたらした細菌が原因か?
Q5 避妊具を配りさえすれば過剰人口を抑制できるのか?
Q6アメリカがもっと低いテンポで人口増加を経験していたならば、西側世界のリーダーたり得たか?
Q7 人口増加は、経済発展のカギとなるのか? それとも発展の結果か? あるいは発展の足かせになるのか?
Q8 人類の平均寿命は何歳まで伸び続けるか? 平均寿命100歳は可能な数字か?

第1章        人口成長の空間と戦略
人間の歴史を通して、人口は繁栄、安定、安全と同義
人口は、繁栄の大まかな指標とみていい ⇒ 旧石器時代1百万人、新石器時代10百万、青銅器時代1億、産業革命期10億、21世紀末の予測100
人口の数的増大は、幾多の促進要因や阻害要因によって、決定されたわけではないにしても制約を受け、その軌跡の基本的な方向が定められてきた
促進要因及び阻害要因は生物学的なもの(脂肪や再生産の法則と関係)と環境によるもの(その法則が作用する場の摩擦的要因となり、増加率を規制)とに分類することができる
多くの種の動物は急激な増減のサイクルに晒されている ⇒ それに比べるとヒトの場合はゆっくりと変化
人口変動の要因は、1人当たりの出生率と、死亡リスクの強度
潜在的な人口成長力は、女性1人当たりの出生数と、出生時平均余命(平均寿命)の関数
産業革命にいたるまで人類は、主に植物と動物にエネルギーを依存し続けていたと言える。人口増加を抑制してきたのは、この自然環境とそれが提供する資源への依存関係
降雨量が、狩猟採集人口が利用可能な資源量と彼らの人口増加を制約する主要因となっている ⇒ 人口密度との間に逆相関関係がみられる
人口成長の程度には相当の幅があり、かなり大きな戦略空間内で起こったことがわかる ⇒ 増加率や減少率の違いから人口の急速な増大や低下が生じ得る

第2章        人口成長: 選択と制約の間で
3つの大きな人口サイクルが確認 ⇒ 人類が登場してから新石器時代まで、新石器時代から産業革命まで、そして現代までのサイクル
長期的に見れば、人口成長は利用可能な資源と共に変化し、後者が前者の超すことのできない限度となる
人口増大は、成長の時期と停滞・低下の時期が交互に来た結果だが、その原因は何だったか?
新石器時代のサイクル変換は、食糧の栽培と耕作により食糧供給を支配したのが原因
ヨーロッパについて言えば、紀元1000年頃から3世紀間増大局面に入り、続く2世紀停滞したのは1347年シチリアに発したペスト(黒死病)の蔓延
インディオを始め新大陸における人口減少の主要な原因は、ヨーロッパの植民者が十分に適応していた多くの病原体とそれに対する免疫を、新大陸では存在していなかったがゆえに先住民が持っていなかったという事実にある
1500年から奴隷貿易が最終的に廃止された1870年の間に、9.5百万のアフリカ人が奴隷としてアメリカに渡った。これは生存者だけなので、ほぼ同数の死者がいたと推定。大量の人口流出が西アフリカ地域の人口に抑制効果を持ったことが推定される
一方で、奴隷の流入国では、北アメリカでは高い自然増加の状態にあったが、カリブ海諸国とブラジルでは再生産率が低く、それを新たな流入で補っていた
17世紀、セントローレンス川を探検したフランス人による入植は、移住が成功した好例。1680年までに1万人が定着、その後の100年でほとんど自然増により11倍に膨張。カナダ移住が人口学的成功を勝ち得たのは、初期の選抜効果、社会的凝集力、環境上の好条件があったから
人口と資源が並行して進んだ好例として、1719世紀のアイルランドと日本がある ⇒ アイルランドは長く最貧国だったが、ジャガイモの導入の成功が耕地の拡大と細分化を可能とし、一気に人口が増えだす。日本も徳川初期120年間に人口が3倍になったのは、政治的安定とともに生産の主目的が販売へとなったことが大きく寄与
18世紀をもって世界の多くの地域は人口加速の局面に入ったように思える ⇒ 欧米以外は統計情報がないため推測、その原因については論争がある

第3章        土地・労働・人口
農業社会の経済発展に対して人口成長はどのような影響を与えるのか? ⇒ 人口増加が限られた資源をめぐる競合を生み出し貧困を増加させると否定的に捉える見方と、逆に規模の経済が働き、より多くの生産と余剰、技術の進歩に繋がるという見方が拮抗している

第4章        秩序と効率を目指して: 近現代ヨーロッパと先進国の人口学
近代西洋における人口サイクルは、1920世紀を通じてありとあらゆる経験をした。ヨーロッパの人口は4倍となり、平均寿命は2535歳の範囲から80歳まで上昇、女性1人当たりの平均子ども数は5人から2人へ減少、出生率と死亡率は共に1/31/4に低下 ⇒ 「人口転換」と呼ばれ、無秩序から秩序へ、消耗から節約へ移行する複雑なプロセス
ヨーロッパの人口転換は、出生率と死亡率の調整によって達成された ⇒ 人の一生が秩序だったものとなって寿命が延び死亡率が減少、一方出生率も漸進的に低下し、安定状態となるが、現在の水準が続くと人口が減少し、さらなる深刻な高齢化に苦しむことになる
新大陸への移民の増加(18世紀末で8百万以上が南北アメリカへ)によって、他の大陸へもこのような人口転換が伝播し、広範囲にわたる人口拡大となるが、払った代償は無視できない

第5章        貧困国の人口
世界の富裕国で人口増加の過程が終わりを迎える一方で、貧困国における人口増加は1900年約10億だったものが100年で5倍に膨れ上がった
両者を比較すると、人口転換が始まった時点での死亡率が同水準の一方、出生率は貧困国が大きく上回る ⇒ ヨーロッパの人口に見られるマルサス的婚姻抑制(晩婚と高い生涯未婚率)が貧困国では見られない
出生率の決定的な制限要因となるのは自分の意志による抑制 ⇒ 避妊率が70%以上であれば富裕国のように低い出生率水準になると言えるが、アフリカでは10%、アジアでは23%、ラテンアメリカとカリブで40
発展途上国の人口の半分を占めるインドと中国 ⇒ 両国とも家族計画を策定したが、中国ではその結果1950年以降出生率が3/4も引き下げられ、このまま続けばいずれ人口減少に転じることになるが、インドの出生率は1/2に低下したものの急速な人口増加が今後も続く水準にとどまっている。中国の急激な人口原則は70年代以降の目覚ましい経済発展の要因となったのであろうが、代償として今後の急速な高齢化へと向き合う必要がある。インドでは持続する人口増加は近代化への障碍だろうし、多くの社会問題を悪化させることになろう

第6章        将来展望
世界人口は2025年に80億、43年に90
人口増加率は、201015年の1.1%から徐々に低下、204550年には0.4%に下がる
先進国の人口比率は201050年に17.9%から14.1%に低下、アフリカが14.8%から23.6%へ上昇
2100年に101.2億となって成長率ゼロの静止人口となる。アフリカの比率は35.3
2050年に人口上位10か国に入る先進国はアメリカのみ
国家間の関係も、当該国の相対的人口規模に大きな変化が生じた場合には当然影響が出る
現在進行中の紛争は、人口逆転の帰結
ここ10年で富裕国の出生数は136百万、移民流入34百万円の計170百万が社会の世代交代を担っている  移動は富裕国の再生にかなりの貢献をしている
平均寿命は、老年死亡率の継続的な低下によってさらに伸びることは確実
人口の増加が、経済と社会の進歩にとて脅威となるかどうか判断するのは、人口がその後の成長見込みに対して反応し適応するので予測は難しい
現時点では、地球の収容能力に関する限り、潜在的制限要因(食糧生産と天然資源の利用可能量)の限界点は遥か先で、限界に近付いてきた時に現れる徴候である資源埋蔵量の減少や価格の上昇はまったく生じていない
21世紀には、人口増加によって人間の生活様式には、いまだ漠としているが重要な変化が訪れることだろう
再生不能資源と食糧の限界、空間と環境からくる限界等考えられるが、制約要因の認知の問題は複雑であり、数値計算の問題ではなく、ますます価値観の問題となってくる
現在の人口増加は危険な道路を疾走する車のようなもの。道路は有限と考えられる資源の例え(限界は存在するが、非常に弾力的なもの)。道路の終点には峡谷があるとしよう。峡谷に向かって進み、事故は必然と想定されるため、その直面する問題に対してどう対処するか考えなければならないのが現在の置かれた状況


訳者あとがき
本書は、人口学と人口歴史学の泰斗による、日本の読者が初めて手にするタイプの人口の世界史
歴史的、地政学的に異なった状況下にあった人口学的メカニズムの、それぞれの実態に応じた解明が基本にある





人口の世界史 マッシモ・リヴィバッチ著 資源との関係で探る増加メカニズム 
日本経済新聞朝刊2014年5月4日付フォームの始まり
フォームの終わり
 
気象や自然災害や感染症は、農業が始まってから、人口と資源の均衡を変える要因であった。人口増加を決定するメカニズムはゆっくり変わるので、人間は環境条件の急速な展開には簡単に適応できない。
(速水融・斎藤修訳、東洋経済新報社・2800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)
(速水融・斎藤修訳、東洋経済新報社・2800円 書籍の価格は税抜きで表記しています)
 著者は、人口と資源の相互関係を説明する一手法として、1719世紀のアイルランドと日本を比較する。両国は17世紀に人口を爆発的に増加させながら、19世紀半ばには大飢饉(ききん)を経験するか長い停滞に陥ったのは何故なのだろうか。
 アイルランドの人口増加は、ジャガイモ導入の成功が大きく、それによる耕地の拡大と細分化が早婚を助長したようだ。ジャガイモ1樽(たる)あれば、乳児を含めて5人家族が1週間食べていけた。ところが病が、ジャガイモを襲い不作となれば、人びとは飢えるしかない。ジャガイモは急速な人口増加の一因であったが、人びとが単品だけに頼る恐ろしさも教えてくれる。日本も初めはアイルランドと似ていた。貢租と自給のための生産は貧困を伴ったが、その主目的が販売に変わった時、窮乏は豊かさと生活の質を上げる労働へ変わったと、日本人の研究を吸収する。また、日本近世の人口停滞の理由は、堕胎や間引きによる抑制や、女性の労働負担過重による妊産婦死亡率の増加によると強調している。
 国連推計によれば、将来の世界人口は2025年に80億人に達し、2100年にその3分の1以上はアフリカとなるらしい。また著者は、伝統的に敵対関係にある二国間、あるいは長い交流のある二国間にも人口規模が変化すると「影響が出てくる」と指摘するが、その関係が「どのような変化を迎える」のかと、疑問を提起するだけに留(とど)めている。ここでは人口学者による未来の政治や社会の構造への踏み込んだ史的分析が欲しかった。
 他方、人口問題解決のために、「世界移民機関」をつくり各国政府が移民関連の権限を譲って、人口移動数を各国家に割り当てるという構想もあるらしいが、著者は否定的である。いずれにせよ著者は、寿命延伸の可能性を語るとき、富裕国の持続可能性と貧困国の持続不可能性の違いを強調するのだ。ボツワナの成人人口の3分の1がエイズウイルス(HIV)に感染しており、平均余命が198590年の64歳から、200005年には48歳になった。新療法の開発と費用負担の軽減を促す著者の提言は、人口史の切実なテーマともなるだろう。
(明治大学特任教授 山内 昌之)


人口の世界史 [著]マッシモ・リヴィバッチ

繁栄、安定、安全に迫る危機
 人口の増減が経済・社会に与える影響を述べた書は数多(あまた)あるが、「人間の歴史を通して、人口は繁栄、安定、安全と同義だった」と書き出す本書は、人口増減の理由を根源的に問い、人口現象の「内的メカニズム」に迫る。
 出生率と死亡率の劇的変化は社会変容の反映である。ホモ・サピエンス(現生人類)の誕生以来、「人口の世界史」の大転換期が2度あった。
 最初は1万年前。新石器時代への移行期の「生産能力の劇的な拡大」による人口増だ。これは「バイオマス(ある空間に存在する生物の量)の制約」からの解放だった。狩猟採集生活から農耕生活へ移行し、定住という安定が出生率を上昇させ人口が増加した(死亡率も上昇)。
 第2は18世紀後半から欧州で起きた「人口転換」だ。産業革命により「土地供給と限られたエネルギー量(動植物・水・風といった)」から解き放されたことで、「不経済(多産多死)から節約へ」、「無秩序(子が親より先に死ぬ)から秩序へ」と移行し、経済は繁栄を極めた。
 ホッブズが「闘争状態」を終わらせるために1651年に著した『リヴァイアサン』の社会的影響は18世紀後半になってようやく表れ、ホイジンガが『中世の秋』で述べたように「新しい時代がはじまり、生への不安は、勇気と希望とに席をゆず」ったのだ。
 だが、その後先進国では出生力の「後戻りできない低下」が始まり、貧困国は人口増加が続く。本書は転換と収斂(しゅうれん)の過程が終了する将来の人口の潜在的増加率を「±1%」とみているが、既に出生した若年層の多さに負うところが大きい。「人類史はいま新たな歴史局面に入りつつあり、(略)現在の人口増加は危険な道路を疾走する車のようなもの」と著者は警告する。
 英歴史家ホブズボームは20世紀を「極端な時代」とみた。21世紀には、さらに予想のつかない未来が待つ。
    
 速水融・斎藤修訳、東洋経済新報社・3024円/Massimo LiviBacci 36年生まれ。伊フィレンツェ大学名誉教授。


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