本にだって雄と雌があります  小田雅久仁  2013.6.16.

2013.6.16.  本にだって雄と雌があります

著者 小田雅久仁 1974年仙台市生まれ。関西大学法学部政治学科卒業。2009年『増大派に告ぐ』で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞、デビュー。現在、大阪府豊中市在住。
発行日          2012.10.20.
発行所          新潮社



深井家には禁忌(タブー)があった。本棚の本の位置を決して変えてはいけない。九歳の少年が何気なくその掟を破ったとき、書物と書物とが交わって、新しい書物が生まれてしまった――! 昭和の大阪で起こった幸福な奇跡を皮切りに、明治から現代、そして未来へ続く父子四代の悲劇&喜劇を饒舌に語りたおすマジックリアリズム長編。 

本にだって雄と雌があります []小田雅久仁
[評者]川端裕人(作家)  [掲載]20130113   [ジャンル]文芸 
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大法螺で包む書物愛と家族愛
 本にも雄と雌がある。それが証拠に書架に本を並べておくと知らぬ間に繁殖しているではないか。「書物がナニして子供をこしらえる」のである。この件に合意する読書家は多いはず。実際、本は増える一方だ……と一定のリアリティーを感じつつニヤニヤ読める大法螺話。
 相性のよい本が隣り合わせたがために生まれた「子」を「幻書」と呼ぶ。放っておくと鳥のように羽ばたいて飛び去ってしまうので蔵書印を押して鎮めなければならないのだが、それはボルネオ島に住む空飛ぶ白象の牙から作られたものだ。かの島には古今東西すべての本が所蔵される「生者は行けぬ叡知の殿堂」幻想図書館があるという。
 そのような幻書の蒐集家、深井與次郎の生涯を、孫の博がさらに自子の恵太郎(つまり與次郎のひ孫)に語り聞かせるのが本作の基本的な構えだ。恵太郎はまだ幼いのに、なぜ曽祖父と幻書のことを伝える必要があるのか。
 書籍愛と家族愛ゆえ、なのである。前者について與次郎は博に言う。「本いうんはな、読めば読むほど知らんことが増えていくんや……わしみたいにここまで来てまうと、もう読むのをやめるわけにいかん。マグロと一緒や……息できんようなって死んでまうんやでェ……字ィ読むんやめたらなあ」
 與次郎は電子書籍など見向きもしないだろうが、ここまで書と向き合った者だけが死後に司書として召されるのが件の幻想図書館であり、その存在感はどことなくネットの「クラウド的」でもある。
 一方、家族愛。幻書は期せずして家族の歴史を記録し、予言のごとく未来を語る。博が恵太郎に語る意味はやがて明らかになるのだが、最後まで読み通したら、なにはともあれ本書の扉に戻ってほしい。表題の隣の部分をよく見るといい。あなたが今読み終えた本は……自らの目で確認すべし。
    
新潮社・1890円/おだ・まさくに 74年生まれ。『増大派に告ぐ』で日本ファンタジーノベル大賞。

著者は語る

本と家族への愛にあふれたファンタジー

『本にだって雄と雌があります』 (小田雅久仁 著)

2012.12.02 07:00
本と本が結婚すると新しい本が生まれる。学者、文筆家であり、蔵書家でもあった深井與次郎は、そうして生まれた「幻書」を蒐集していた。與次郎の孫・博は、與次郎をはじめとする一族と、幻書の謎について書き綴る。幻書が羽ばたいて向かう先は……。奇想天外な悲劇&喜劇を、饒舌に、脱線しつつ語る深井家4代の物語。 新潮社 1890円(税込)
 2009年に『増大派に告ぐ』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビューした小田雅久仁さん。デビュー作は、妄想に囚われたホームレスと、彼に惹かれる少年を描くダークな作品だった。第2作目となる本作は、うってかわって駄洒落満載、本と家族への愛に溢れたファンタジーだ。
大阪の素封家・深井家は蔵書の数が夥しく、「書物の位置を変えるべからず」という掟がある。本には雄と雌があり、相性のいい本を並べると子供を作って新しい本が生まれてしまうというのだ。博の祖父・與次郎は、それを「幻書」と呼ぶ。
「自分の部屋が本だらけなんです(笑)。読みきれないのについ買ってしまって、自分が思っている以上のペースで増えていく。父が大学の先生で、実家にも本が多かったですね。もし本が勝手に増えていくとしたらそれはなぜなのか?と考えたのが小説の出発点です」
與次郎は人を食ったような冗談好きの人物。ライバル・鶴山釈苦利(しゃっくり)や妻・ミキとのエピソードなど、馬鹿馬鹿しい話が軽妙な文章で綴られ、笑いを誘う。
「與次郎はしょうもないことを言う大阪のおっちゃんですね。関西に長く住んでいるので笑いのある会話に馴染んでいて、ユーモアのある小説を書くのは自然なことでした。また、野坂昭如さんの文章や、東北弁で書かれた井上ひさしさんの『吉里吉里人』などにも影響を受けたと思います」
博は、幻書が鳥のようにバサバサと空を飛ぶ光景を目撃する。やがて、與次郎の戦地での体験や幻書の謎が明らかになり、空飛ぶ象や、ボルネオの奥地にある巨大な幻想図書館が登場し……。奇想天外かつ心温まるストーリーが展開する。
「小説に図書館を出すのが好きで、前作にも登場させました。世界中に存在する本を全部読もうと思ったら、きっと永遠に読み続けても足りない。そこで、全ての本が集まる図書館があって、そこに歴史上の書物蒐集家たちが仕えていて……と設定を考えていきました」
本書は、博が息子に向けて書いた文章という形をとる。與次郎の生涯を辿る物語は、家族への温かい思いに満ちている。
「家族の物語を書く、という意識はなかったんです。ただ、代々の祖先からいろんなものを受け継いでこそ今の自分があるという思いがあって、それは小説の登場人物を作るときも同じです。先代、先々代と過去に遡って種を植えて、そこからキャラクターを作っていくのが好きですね」






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